高円寺博・永井豪・石川賢『心霊探偵オカルト団』2巻 大都社 1991年

 1975〜76年に『少年キング』に連載されたオカルト・アクション・シリーズです。本巻は,そのリニューアル版の2巻,「悪夢の追跡者」「芦屋家の崩壊」の2編を収録しています。
 けっしてこの作者たちのメジャーな代表作というわけではなく,映画『エクソシスト』(日本公開1974年)に端を発する「オカルト・ブーム」に便乗した作品と言えなくもありませんが,好きなんですよね(とくに「芦屋家の崩壊」!) 古本屋さんで見つけて,速攻で購入しました(笑)
 物語は,現代科学では解明できない怪奇な事件を,5人の男女が,それぞれの持ち味を生かして解決していくというシリーズです。
 支郎は行動力にあふれるオカルト団の団長,お嬢様風のユリカは,怪異を予知するとき,その長い髪が逆立つという霊能少女,甲作は,科学的方面からオカルトを解明する「メガネ君」,怪力無双のリッキーは,もっぱら体力勝負です(笑) それとスケベな五右衛門は,事件解決にはあまり(まったく?)役に立ちませんが,永井・石川マンガでは常連の「笑い専門」のキャラクタです。
 いわば「オカルト・ハンターもの」の範疇に入りますが,永井・石川という作画者からもわかりますように,アクションたっぷり,スピード感あふれる仕上がりとなっています。

 まず「悪夢の追跡者」。1週間の冒険キャンプに出発しようとするオカルト団の面々。その直前,奇妙な依頼人の訪問を受け,目的地を「日本の秘境・有塚村」に変更,そこで彼らが遭遇した恐るべき事件とは? という内容です。
 ネタばれで書いてしまうと,落下した隕石からの放射能で巨大化し,知能を持った蟻が,人間の身体を乗っ取るという,まさにB級SFホラーの王道(笑)を行くような設定なのですが,やはり目をひくのが,その迫力あるバトル・シーンです。つぎつぎと襲いかかる「村人」たち,応酬するオカルト団,もう頭は吹っ飛ぶわ,火だるまになるわ,と,作画者のパワー爆発と言った感じです。また吹き飛ばされた脳から巨大蟻が,ぞろぞろと這い出てくるところもグロテスクです。そういった点,ストーリィよりも「画」で読ませる作品と言えましょう。

 そしてなんといっても「オカルト団最大の難事件」「芦屋家の崩壊」。タイトルは言うまでもなく,E・A・ポー「アッシャー家の崩壊」のパロディです(津原泰水の短編小説で「蘆屋家の崩壊」というのもありましたが^^;;)。
 「呪われた家系」である芦屋家の一人娘から,「呪いによって奇病に冒された父を救ってほしい」と依頼されたオカルト団。崖の上にそびえ立つ芦屋邸を訪れた支郎たちは,そこで恐ろしい怪異に襲われる…というストーリィです。
 まず「呪いの理由」である芦屋家の先祖たちのキャラクタ,悪行の数々がすさまじい。とくに初代の芦屋幽齋,農民たちを酷使して,彼らの食事には,死んだ仲間の肉を食わせたという,ホント,「呪われても仕方ねぇよ」と言いたくなる化け物です。さらにその先祖たちを襲う「呪い」も,おぞましいばかり。呪われる方も呪われる方なら,呪う方も呪う方,よくもこんな一族が絶えもせずに,戦国時代から続いていたものだと感心してしまうくらいです(笑)
 ところが支郎は,これら芦屋家の歴史から,こういったさまざまな事件が,じつは「呪い」によるものではなく,超能力戦の結果であると推理します。つまり,現頭首と次期頭首との頭首の座をめぐる超能力戦が繰り返され,それが頭首の「呪われた死」となったのだ,というわけです。そして支郎は,「呪い」を否定するために,芦屋家歴代の墓所を荒らす,という行動に出ます。
 オーソドクスな「呪い」というモチーフに,「超能力」という現代的(?)なアプローチを導入するところは,まぁ,昨今のホラーではさほど珍しいものではありませんが,むしろ支郎が,積極的に事件に介入−墓所荒らし−することによって,「謎」の側と「探偵」との側との間に,一種のダイナミズムが生じ,それがストーリィをぐいぐいと引っ張っていくところは,リーダビリティにあふれています。
 さらに支郎の推理は,幽齋の霊の出現によって否定され,ふたたび事態は混沌としますが,降霊会の実施を経て,一気に真相の解明へと展開していきます。芦屋家の呪われた歴史と,支郎の推理とを巧みにミックスさせた真相は説得力に富み,さらに彼の推理を嘲笑うかのようなツイスト,そして意外な,しかしリーズナブルなクライマクスへと雪崩れ込む展開は,まさに圧巻です。
 先にも書きましたように,この作画者たちの代表作というわけではありませんが,ストーリィやプロットの上手さと,作画者たちの圧倒的なまでに迫力ある画面が,見事に結びついた佳品ではないかと思います。

04/06/25

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