唐沢商会『脳天気教養図鑑』幻冬舎文庫 1998年

 原作(ずのうろうどう)を唐沢俊一(兄)が受け持ち,作画(にくたいろうどう)を唐沢なをき(弟)が担当するという,兄弟会社「唐沢商会」です。本書が青林堂から出ていることは知っていたのですが,なにしろ田舎住まいなもので,青林堂のマンガを置いてるような本屋がない!(T_T) ですから今回の文庫化はなんともうれしいですね。
 内容はというと,まぁ「エッセイ・コミック」ということになるのでしょうね。しかし,原作者も作画者も,兄弟そろって「おたく」ですので,蘊蓄のオンパレードです。それも「ど〜でもい〜こと」ばかりです(笑)。ただし,やはり文庫化に踏み切るだけあって,同じ唐沢商会でも,『原子水母』や『ぶんかの園』などのように,シ○ブや電波系といった「あぶないネタ」はさすがにないですね(笑)。
 それにしてもトリヴィアルなネタが多い。たとえば「人生一行知識」では,昔の少年誌の「ハシラ」(各ページの右側あるいは左側の余白)に書かれた「一行知識」にこだわっています(最近の少年マンガは,コマ割りが派手ですので,あんまり見かけませんね)。
 また「脇役に花束を」では,洋画の脇役に関する豊富な知識が飛び出してきますし,「甘党の怪人」では,往年の名脇役・潮健児への熱い思いが語られます。この役者さんはぜんぜん知らなかったのですが,『悪魔くん』のメフィスト(弟)や『河童の三平』のいたち男,『仮面ライダー』の地獄大使を演じていた役者さんと描かれていて「ああ,あの人か!」と納得してしまいました(笑)。なんだか読んでいてうれしくなってきますね。

 お気に入りの話は「噂の噂」「なんかこわい話」といった都市伝説ネタと,「古本市血笑旅」「古書街エレジー」などの古本ネタです。
 「噂の噂」で出てくる「ひとさらい」の噂について,原作者の友人Aが,
「あれは今の『誘拐』とはちょっと違う。いわば化け物みたいな『ひとさらい』って怪物なのだ」
と言ってますが,このセリフは,自分自身の子どもの頃の「ひとさらい」のイメージをよく表現しています。夜遅くまで遊んでいて,母親から「『ひとさらい』に連れて行かれちゃうよ!」と怒られたとき,子どものわたしにとって「ひとさらい」は,特撮モノに出てくるような「怪人」のイメージがありましたもんねぇ。「サーカスに売られてしまう」というのもフォークロアとしてありましたね。
 「古書街エレジー」では,「困った客」「困った古本屋」ベスト10というのが笑えます。一番おもしろかったのが「困った古本屋・第6位」の「H井書店」。原作者(兄)が,買った本を店員につつんでもらっているとき,そこの店主が後ろからのぞき込み,ひとこと。
「へん,ゴミだな」
 なんともとんでもない店主ですねぇ(笑)。
 それと「困った客・第4位」の「マナーの悪い客」で「ぬれた雨ガサを持って歩き回るやつ」というのが出てきますが,わたしもこういう無神経な人を見ると,無性に腹が立ちます。あと個人的には,平積みの本の上に,自分のバッグを乗せている人にもいらいらさせられますね。それがいい年こいたおっさんだった日にゃぁ,「今まで生きてきて,なに習ってきたんだ!」と,思いっきりツッコミたくなります(怒)。

 まぁとにかく「ゲラゲラ」ではなく,「にやにや」笑えるマンガです。

98/02/19

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