我孫子武丸・河内実加『人形はこたつで推理する』2巻 ソニー・マガジンズ 1999年

 腹話術師で二重人格の朝永嘉夫,その人形で,彼のもうひとつの人格,そして名探偵の鞠小路鞠夫,幼稚園の先生で嘉夫の恋人“おむつ”こと妹尾睦月の3人(?)を主人公にしたシリーズ第2巻です。1巻が出てからじつに3年ぶりです。原作の方は,文庫化されているのはひととおり目を通しているはずですが,少々記憶あやふやです・・・^^;; マンガの方は,カヴァに「全2巻」となっているので,これでおしまいなのでしょう。

「ママは空に消える」
 睦月の勤める幼稚園の園児・るなは,「ママは空の上のおばちゃんのところへ行った」と言い…
 この作品,「我孫子飯店」で見たら,まだ単行本化されていないようなのですが,このネタはどこかで読んだような気がしてなりません。『メフィスト』掲載だから,もしかするとそれで読んだのかなぁ・・・滅多に買わないんだけど・・・。「空の上」に隠された名前が明らかになったとき,「こんな名前ないよなぁ」などと思っていたら,たしかにこう書けば,その通りですよね。なるほど・・・
「人形の生まれた日」
 嘉夫の親友・波多野の恋人が,浴槽の中で頭を打って死んだ。警察は事故として処理したが…
 タイトル通り,「鞠小路鞠夫誕生編」であります。まだ睦月と知り合う前の嘉夫の姿が描かれています。多重人格というのは,しばしば強いストレス下に置かれた人間が,それを回避するために生じるという話を聞いたことがありますが,嘉夫の場合も,親友に対する不信感がきっかけになるという設定で,それなりに説得力はありますね(もっとも本当の精神分析医からすれば,噴飯ものかもしれませんが・・・^^;;)。嘉夫の「知ってしまったがゆえの苦悩」が上手に描き出されており,また「ほっ」とさせられるラストもいいですね。それにしても遥さんは,学生時代からナイス・バディだったんですね(笑)。
「誰が人形を殺したか」
 テレビに出演した嘉夫&鞠夫。ところが嘉夫の様子がおかしい……そして鞠夫が何者かに“殺され”…
 このエピソードは原作で読んだ記憶がありません(といっても,自分の記憶力に絶大なる「不信感」を持っているので,あてにはなりませんが・・・^^;;)。ユーモア・ミステリと銘打たれているとはいえ,基本的に嘉夫と鞠夫との関係は,一種の病気であり,深刻なものを含んでいます。鞠夫が嘉夫のコントロールを離れたとき,果たして嘉夫はどう対処したらいいのか? 彼の悩みが深まっていくときに,鞠夫が“殺される”という事件が起こるシチュエーションは,お話作りとしてなかなか巧いですね。推理のプロセスも小気味よく,楽しめました。
 ところで,原作では嘉夫と睦月は「チョメチョメな関係」(<死語)になっているはずですが,マンガの方では,そこまで至らなかったようですね。まぁ,少女マンガという発表媒体のせいなのでしょう。

 なんでも原作の方の「人形シリーズ」は復活したとのこと。楽しみですね。

99/12/09

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