須藤真澄『ナナカド町綺譚』秋田書店 2001年

 「その場所に面白いものがあっても,それを面白いと思う人がいなきゃ面白くないでしょ?」(本書「ナナカド町綺譚」「3の角 陸と海の植物」より)

 表題作と「アメイジング・プレイス」の2編を収録しています。

「ナナカド町綺譚」
 7つの角がある「ナナカド町」に引っ越してきた“なのは”。彼女は,その7つの角をひとつずつ探検しようとするが,角のひとつひとつで不思議な体験をする・・・

 ・・・という体裁の,7編よりなる連作短編です。
 この作者の描線は,「一点鎖線」という,他に例を見ないユニークなもので,また登場するキャラクタの造形も,まん丸目玉にふっくらとした顔立ちといった具合。描線も造形も,ともに典型的な「ほのぼの系ファンタジィ」の雰囲気を生み出しています。しかし,この作者の描く作品の内容は,そんな「ほのぼの系」のテイストの陰に,どこか「怖い」「不気味な」といっていいような「隠し味」があるように思えます。
 たとえば,双生児の剥製師が登場する「1の角 昼と夜」。剥製の動物たちが,夜は剥製だけど,昼になると「甦る」というイメージは,怪奇映画などでときおり見られるものではないでしょうか?(もっとも,昼=死,夜=生というパターンの方が多いかもしれませんが) また,ラストで描かれる双生児の秘密も,たとえそれが好意に発しているとしても,かなり不気味なものと言えます。また「3の角 陸と海の植物」に出てくる奇妙なサボテン。これは,わたしの偏った読書傾向に由来する偏った連想かもしれませんが,そのサボテンの習性から,どうしても「人喰い植物」「肉食植物」を思い出してしまいます。「2の角 大空」の青年や,「4の角 太陽と月と星」の「研究者」も,いかがわしさと怪しさに満ち満ちています。
 つまり,それぞれのエピソードは,一歩転ずれば,ホラーや怪奇もののフィクションと同質なものを,その底部に湛えていると言えます。しかし,上に書いたような描線と造形,また本編の場合,主人公の能天気なキャラクタ設定によって,それら不気味なものがストーリィの前面に浮上してくることが回避されているのではないでしょうか? そのミス・マッチ,アンバランスさが,この作者の作品が持つ,「ほのぼの系ファンタジィ」にはない独特のテイストを醸し出しているのではないでしょうか?
 ところで,各編のサブ・タイトルは,キリスト教で言うような「創造の1週間」のパロディになっているのでしょうね。

「アメイジング・プレイス」
 親とケンカして家出した美樹は,一夜の宿を,建築中の家に求める。そこで,大工のヨネさん,軽い大学生マサユキ,家主の東おばさんと出会う。ところが,一晩あけてみると,その家は完成していた。それだけでなく・・・

 「疑似家族」を,ファンタジックな設定で描いています。う〜む・・・もうちょっと長い方がいいんじゃないのかなぁ。たとえば,主人公美樹の決心の過程を,もう少し丹念に描き込んでいくとか,ヨネさんと「木」との関係を,ミステリアスに引っぱるととか・・・最終話の「家族解散」というサブ・タイトルを生かすには,「(疑似)家族」としての,それなりの「積み重ね」「時間的長さ」が欲しかったように思います。
 でも,この作家さんの本領は,どうやら短編にあるようですから,ここらへんで留めておいた方がいいようにも思いますし・・・。

01/01/31

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