内田美奈子『ナイフと封筒』朝日ソノラマ 1983年

 古本屋で見つけた1冊。7編よりなる短編集です。ミステリあり,心理サスペンスあり,ファンタジィあり,SFあり,学園ドラマあり,恋愛ものあり,パロディあり,と,ヴァラエティに富んだ1冊ではありますが,いずれも,どこか奇妙でシニカル,醒めた視線を漂わせた,この作者以外,けして描けない独特のテイストに満ち満ちています。

「ナイフと封筒」
 美人の波多野仁美が失踪した。明川荘之にページの破れた1冊の辞書を残して・・・そして悪い噂の絶えない友人・三原の影がちらつく・・・
 友人の失踪以後,目の前にちらつく奇妙な暗合を手がかりに,主人公が推理を繰り広げていくミステリ仕立ての作品です。主人公の切迫感がいまひとつ伝わってきませんが,そこは,キャラクタを突き放したように描く,この作者の持ち味でしょう。それにしても,三原のような人物がそばにいたら,迷惑このうえないでしょうね(笑)。
「チェンジ」
 子どもの頃に目撃してしまった殺人現場。そのトラウマを抱えるクリフは,人間関係をうまく保てず・・・
 舞台設定は外国・外国人でもあるにもかかわらず,こてこての日本的なウェットな感じの強いマンガが多い中,それこそ翻訳物を彷彿させる心理サスペンスです。主人公クリフと,彼の恋人アイリーンとのやりとりは,向こうの映画を見ているような印象を受けます。
「アヒルのいる海を背景にして」
 両親と伯父さんに海に連れてきてもらった“ぼく”は,そこで“海の精”に出逢った・・・
 ファンタジィ,なんでしょうね,この作品。一応,“海の精”やら,新聞を読むアヒルのドナルドなんかが出てきますから・・・^^;; コンプレックスの固まりで,珍妙な垢抜けない格好をした,まったく“海の精”らしからぬ,“海の精”が,なんともユニークです。
「良治郎 帰還せず」
 ある日,良治郎は,自分が物に躰がめり込む体質であることに気づき・・・
 ううう・・・ぶっ飛んでますねぇ,ようわからん(笑)。ナンセンスSFとでも言いましょうか? ねじれた空間が「ラーメン」というセンスには,思わず笑っちゃいました。でも,「良治郎」って,結局なんだったんだ?
「アニマル・フレンズ―海明音の裁判―」
 “ぼく”はときどき友人が動物に見える。でも海明音(かいめね)だけは,いつもネコに見えて,人間には見えない・・・
 真面目で気弱で,不器用で,妙に子供じみていて・・・そんな海明音みたいなキャラクタって,たしかにどのクラスにもひとりくらいはいそうな感じですね。もしかすると,そんな彼を見てイライラするのは,自分の中のどこかに“海明音”がいるからなのかもしれません。それにしても,真留ちゃんはかわいい!(=^^=)
「フライング・エッグ」
 美人で高慢ちきで冷たい言子。“ぼく”東は,彼女の腰巾着と言われながらも,やっぱり彼女が好きで・・・
 主人公の敵役でもなく,ギャグ・マンガでもなく,こんなキャラクタをメインにすえて,なおかつラヴ・ストーリィを描いてしまうというところは,凄いです。ところで,東くん,卵はね,孵ってからが大変なんですよ。もう守ってくれる殻はないんだから(<わぁ,おっさんくさい説教(笑))。
「少年探偵団」
 う〜む・・・なにがなにやら・・・(°°)

98/06/15

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