星野之宣『宗像教授伝奇考』4巻 1998年

 民俗学者・宗像伝奇が出会う,さまざまな怪異な事件を描く本シリーズも4巻目です。4つのエピソードが収録されています。

「殺生石 前後編」
 インド・香港で相次いで原子力発電所の事故が発生。その背後には謎の宗教団体の影がちらつく。そして日本でも彼らの暗躍が始まっていた…
 本編に出てくる狂信的な宗教団体“ダーキニー原理教団”は,「浄化」の名の下に原子力発電所を爆破しようとします。その目的と方法,そして描かれる教団の描写は,明らかにオ○ム真理教をモデルにしています。宗像教授は,単身,この邪教団に立ち向かい,陰謀を阻止しようとするわけですが,ちと今回は相手が大きすぎた,というか,悪すぎた感じがしないでもありませんね。いつもの飄々とした教授とはちょっとイメージが合いません(笑)。それにしても,「九尾の狐」が死してなお,その瘴気をもって人を殺したという殺生石と,放射能を発するプルトニウムとのメタファは,「巧い!」と単純に楽しめない,ぞっとするリアルさが感じられますね。
「縄文の虎」
 静岡県足柄山で虎が脱走した! 偶然,山中にいた教授は,虎を追うハンタと意外なものを発見する…
 そういえばこんな人騒がせな事件が,以前ありましたね。縄文時代の土偶の文様と,“十二様”という民間信仰,そして1万数千年前に日本列島に生息していた虎,という一見関係なさそうな事柄を,“えいやっ!”で結びつけてしまうところが,このシリーズの楽しさです。とくに“十二様”の“十”と“二”を重ねて書くと“王”になるなんて,思わず笑ってしまいます。笑ったと言えば,ラストの女性編集者のセリフ,「前から思っていたんですがセンセ・・・寅さんみたい」というオチも,コテコテとはいえ,吹き出してしまいました(目が点になっている教授もかわいいです(笑))。
「父祖の地」
 民俗学者の元学長と南太平洋の島を訪れた宗像は,そこで日本のふたつの過去に出会う…
 沖縄が好きでときおり(仕事もあって)行くのですが,どこまでも青い海を眺めていると,海の向こうに“ニライカナイ”と呼ばれる神の住むが場所があるという信仰を実感できます。そして柳田国男ではありませんが,はるか海の向こうの南太平洋につながっていることが,けっして不思議には思えなくなります。そういった日本と南太平洋との“関係”を,戦争中の悲惨な歴史に重ね合わせて描くところが,この作者らしいところなのでしょう。
「魔将軍」
 徳川五代将軍・綱吉。彼は異常性格だったのか…
 徳川綱吉というと,人間より動物,とくに犬を大事にした「生類憐れみの令」やら,「忠臣蔵」のきっかけとなった浅野内匠頭への不公平な裁定など,けっして評判のいい将軍さんではありません。でも,ここまで異常に描かれてしまうと,ちょっと同情してしまいますね(笑)。でも独裁者に生まれついた人物というのは,大なり小なり,こんな幼児性をかかえこんでいるのかもしれません。

98/12/18

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