東城和実『無限発光電虫林』新書館 1997年

 町中にある立入禁止の“電虫林”。みんなが怖がってけっして近づかない林に,谷川ニキが入った翌日,町から人々の姿が消えた・・・。困惑するニキの前に現れたひとりの青年・ユキ。彼は“電虫林”を監視しているという。いったい“電虫”とはなにか? そしてニキたちの運命は!

 この作者の名前は,本屋でときおり見かけて知っていましたが,作品は初見です。なにやら不可思議で奇妙な(つまりわたしにとっては魅力的な)タイトルに惹かれ,読んでみました。
 物語は,大量の人間消失から始まります。そしてそれは20年前にも一度発生しているという。さらに“電虫の卵”が孵化したときに起こるであろう未曾有の混乱などなど,なんともミステリアスに展開します。ですから前半は,なかなかおもしろく読めたのですが,後半になると,どうもよくわからない(笑)。

 結局,“電虫”というのは,人間の悲しい気持ち,寂しい気持ち,妬みや憎しみなどが蓄積されたものいうわけなのでしょう。それがついには人間から独立し,エネルギィの塊となって,さらに人間を取り籠んでいく。そんな風な設定だと思います。でもって,20年前,一度は“卵”に取り込まれ,戻ることができたものの,その際に感情を失ったユキは,“電虫”にとって“異質”で排除すべき存在なのでしょう。なぜなら“電虫”は人間の感情を取り込むわけですから。ここらへんまではわかるんですよね。が,なぜ“電虫”にとってニキが異質なのか? 彼女の母親もまた20年前に,ユキととともに生還できた,たったふたりのうちのひとりですから,その娘,ということが理由なのでしょうか? “電虫”が取り籠めないがゆえに異質であるのか,異質であるがゆえに取り籠めないのか,そこらへんがどうもはっきりしなくて,ニキというキャラクタの設定がストーリーのなかでどうも安定しない(それは母親の設定のあいまいさにも通じます)。
 だからクライマックスで,なぜ“卵”は孵化しなかったのか,なぜ“電虫林”は消失してしまったのか,がよくわからない。「俺とニキのお母さんが林と同化することでニキは戻れる」とユキはいいますが,「突然そんなこと言われても」という感じで落ち着けません。“電虫林”というミステリアスな設定はなかなかおもしろいと思うのですが,残念ながら,キャラクタの方がそれについていってない,そんな読後感ですね。あるいはページ不足による説明足らずなのでしょうか?(理解できないわたしのおつむが足りないという可能性もありますが・・・・(^-^;;;)

 でもシャープな絵柄は,わたしの好きなタッチです。まだ1作だけですので,ほかのも読んでみようかと思ってます。

98/01/11

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