中田雅喜『ももいろ日記』(上)(下) ユック舎
 主人公は作者本人,いわゆる「エッセイコミック」です。作者の中田雅喜は,この作品が『リイドコミック』掲載時(1985〜88?年頃),当時ではまだ珍しかった「女性エロマンガ家」でしたが,その後,レディスコミックに移りました(というか,レディスコミックがエロマンガ化したともいえますが)。

 連載開始時,中田さんは,同業の彼氏と同棲中で,その彼との性生活を含む生活一般がコミカルに描かれています。その後,ふたりの間に子供ができたのを機に結婚しました。妊娠したときの彼女の言い方がふるっています。

 「それはまさに,『×××とは入れるものである』とゆーがいねんから,『出すものである』とゆー,コペルニクス的世界観の転回」(公共良俗を考え,一部伏せ字にしました。原文ではそのまま3文字言葉が書かれています)。

 連載が始まった頃(上巻の中頃まで)は,「女性エロマンガ家」という,いわば「きわもの」的で,タイトル通り,Hなネタが多いのですが,その後,より広範囲なエッセイコミックへと移行していきます。たとえば作者が高校生時代(京都在住)に見かけた「四条のジュリー」と呼ばれていた「お乞食さん」の思い出が描かれ「春のジュリー」,やっぱり高校時代に修学旅行をさぼって,親をだましてはじめての一人旅に出た「そーゆー年頃」,幼稚園で将来,「ひみつたんていになりたい」と書いたら,先生に「お嫁さん」に書き直されたという「生涯の宿敵」,アルバイトで動物園の助手をしたという「なりたやフリーター」,また妊娠して,入籍して名字が変わってしまったことのむなしさを描いた「本名中田雅喜」など,なかなか興味深いエピソードが描かれています。

 エッセイコミックというのは,文章によるエッセイもそうですが,おもしろいのとつまらないのが,両極端に分かれるようです(まあ,「おもしろい」と「つまらない」という基準は,ひとそれぞれでしょうが)。他人の夢の話を聞くのが退屈なように,他人の日常生活の話を聞いても,ふつう楽しめるものではありません。小説家やマンガ家というのは,けっして周りにごろごろといるような類の人ではないので,彼ら(彼女ら)が描く「日常生活」はそれなりに新鮮でおもしろいのかもしれないけれど,それはあくまで「ネタ」であって,ただ単に「ネタ」だけ書いても,けっしておもしろくない(推理小説がたんに「トリック」解説書でなく,あくまで「小説」であるように)。ネタをどううまく生かしているかが,エッセイコミックの命のような気がします。

 『ももいろ日記』は,最初,掲載された『リイドコミック』の版元リイド社から1冊出ましたが,その後,ユック舎から上下巻で復刊されたました。ユック舎というのは,私もよく知らないのですが,上巻の作者あとがきによれば,地道に女性問題に関する本を出している出版社だそうです。


go back to "Comic's Room"