和田慎二『緑色の砂時計』講談社 1975年

 「シリーズ/風のめざめる時代(とき)」と名づけられた本作品集は,“セックス”をかなりクローズアップさせた,ロ○コンの(笑)この作者としては異色のシリーズ3編(+1編)をおさめています。
 ところで,掲載紙の『mimi』って,いまでもあるんでしょうか?

「緑色の砂時計」
 燿子の兄・雄二は,県下でも一,二位を争う剣道の選手だったが,乱闘事件を起こし,一線から退いていた。その乱闘事件の背後には,燿子をめぐる秘密が隠されていた…
 “インセスト・タブー”を扱った本作品をはじめて読んだときは,かなりショッキングだったことを覚えています。もっぱら,この作者のサスペンスものを読んでいたせいもあって,「こういう作品も描くのか」と思ったことも理由のひとつですが,純情だった少年(°°)のわたしにとって“近親相愛”というのは,あまりにかけ離れた世界だったせいもあるでしょう。いま改めて読むと,ずいぶん“おとなしめ”という感じがしないでもありませんが,“ブラ・コン”“シス・コン”といった,少女マンガ(文字通り“少女”のためのマンガ)が好んで取り上げていたテーマに必ず潜んでいるはずの“セックス”を取り上げている点で,なかなか興味深い作品ではないかと思います。
 それと,兄妹の関係を「砂時計」に喩えるところは巧いですね。
「5枚目の女王(クイーン)」
 姉の自殺の謎を探るべく,大東高校からライバル校・若王子高校へ転校した小沢亜弓。周囲の冷たい視線に絶えながら,彼女がたどり着いた真相とは…
 神恭一郎・岩田慎二・信楽老など,常連キャラが登場する“神もの”のワンエピソードでもあります。『スケバン刑事』の直接の原型は,「校舎は燃えているか」ですが,学園内で孤立する主人公が,事件の謎を追いかけるという点では,この作品も『スケバン刑事』のプロトタイプのひとつといえるかもしれません。この作品も「校舎」も両方とも1975年の発表ですので,作者の中ではかなり密接に関係しあった作品なのでしょう(あえて「一石二鳥」「一粒で二度美味しい」とは言いませんが(笑)<言ってる!)。
「バラの迷宮」
 16歳の海堂美尾は,名家の当主・西園寺京吾に見そめられ,結婚。しかし彼女を待っていたのは,孤独と闘いだった…
 この作品も『スケバン刑事』とリンクしています。神恭一郎の秘書をしていたのが,たしか“西園寺美尾”で,夫・京吾のことも,『スケバン』の最後の方で,わずかながら触れられていたのではないでしょうか? そうか…,『スケバン刑事』は,和田慎二にとっての『バイオレンス・ジャック』だったんだ・・・(わかりにくい比喩ですみません)。ところで,いまでもそうなのかわかりませんが,「闘うことによって理解し合う」というモチーフは,この作者の作品によく見られるパターンですね。ただ「理解」が「愛」に変わるというのは,限りなく幻想に近いでしょうけど…

 追記(98/05/02):はなさん@hanna's gardenよりメールをいただき,『スケバン刑事』の“西園寺美尾”は,この作品ではなく,「バラの追跡」の“美尾”であるとのご指摘を受けました。たしかに「バラの追跡」では“京吾”は海底ので死んでしまったはずで,『スケバン』でもそんな風に説明してあったように思います(いずれも手元にないので,確認できません。また間違っているかも…(^^;;ゝ)。
 はなさん,ありがとうございました。

 この作品集には,この作者の初期短編「ホットケーキ物語」も収録されています。

98/04/29

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