菊地秀行・細馬信一『魔界都市ハンター』1〜3巻 秋田文庫 2002年

 199X年9月13日,東京を襲った巨大地震は,新宿を妖物・魔物の跋扈する“魔界都市”へと変貌させた。その新宿に出現した,老人の姿の“神”をめぐって,“闇(ダーク)教団”と防衛庁の“超戦士(スーパーソルジャー)”との間で壮絶な争奪戦が繰り広げられる。“念法”の達人・十六夜京也と,“魔界医師”メフィストもまた,その戦いに巻き込まれ…

 じつをいいますと,わたしの最初の「菊地秀行体験」は,小説ではなく,このマンガ化作品だったのです。ですから逆に,この作品を読んだあとに,オリジナルの菊地作品を読み,その「アダルトさ(笑)」に少々とまどった記憶があります。このマンガ化作品は,お得意のドロドロヌチャヌチャのモンスタや奇怪至極な魔術やら超兵器が登場する点では,まさに菊地作品ではあるのですが,それ以上に「少年マンガ」としてのテイストが色濃く漂っていると言えましょう。

 その「少年マンガ性」が顕著に現れているのが(うまい言葉が思いつきませんが,いわば)「フェアプレイ精神」でしょう。「闇(ダーク)教団」の司教は,“神”を奪うために7人の“神父”と“尼僧”を,魔界都市・新宿へと派遣します。その際に司教曰く「魔教の名にかけて銃器の使用はならん! 身につけた妖力のみで始末をつけるのだ!!」と。一方の防衛庁特殊能力部隊の(同じく7人)の“超戦士(スーパーソルジャー)”も,“闇教団”の妖術に対抗するのに,各人の持つ超能力以外は不可,という命令を受けています。
 同数の超人・魔人同士が,みずからの技と技,術と術とを競いながら戦う,というパターンは,かつての「忍者マンガ」のノリに近いもので,そう言った点では,「少年マンガ」の「王道」を引き継ぐものと言えましょう。ですから,“闇教団”側の妖術にしても,“超戦士”側の超能力にしても,ともに破天荒で,けっこう「えぐい」ものもありますが,この「フェアプレイ精神」のために,なかなか痛快なものとなっています。

 それともうひとつは「ユーモア」でしょう。もちろん本編のメインは,さまざまな妖術や超能力を駆使したバトル・シーンであり,あるいはまた魔界都市と化した新宿の奇々怪々なモンスタたちの異形性にあり,作画者の迫力ある絵柄で,この世ならぬ戦いが十分に味わえますが,それとともにところどころに,つい笑っちゃうユーモアが挿入されています。
 個人的に好きなのが「魔界都市音頭」(笑) ドクター・メフィストの「再生手術」の手違いで,すっかり「不良少年」になってしまった十六夜京也と,“超戦士”のひとり高山三佐とが,酒をかっくらって踊っているシーンは,思わず吹き出してしまいました。そんな京也を,同じく酒に酔ったさやかが「意見する」ところもいいですね。そうそう,ユーモアといえば,菊地作品ではめったに出ることのない(もしかするとまったくない?)ドクター・メフィストの照れた顔や,お茶目な言動も,この作品ならではのものでしょう。
 こういったシーンが,緊張感たっぷりのストーリィの中で,適度な「オアシス」となっていて,このマンガ化作品独特の魅力となっていると思います。

 さて妖気渦巻く新宿西公園の奥に潜む“神”をめぐる“闇教団”と“超戦士”との戦いの行く末はいかなるものになるのか? そしてなにより“神”の真意は奈辺にあるのか? ますます物語はヒートアップしていきそうで,楽しみです。

02/05/20

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