赤江瀑・森園みるく『ライオンの中庭』双葉社 1995年

 わたしの好きな赤江瀑作品のマンガ化というと,はるか昔(1978年! ぐわっ! 20年前!)ののがみけい『阿修羅花伝』(講談社)くらいだと思っていたのですが,こんなのも出ていたんですね。
 作画は森園みるく・・・・,あまり作品を読んだことはありませんが,少々(?)エッチな作品を描く作家さんですね・・・。でもって初出誌も『Lady's Comic Jour増刊 ミステリーJour』というレディス・コミックです(って読んだことないですが,タイトルが“Lady's Comic”となっているから,やっぱりレディス・コミックなんでしょうね(^^;)。
 レディス・コミックというと,わたしのよく知らない世界なんですが,ときおり本屋やコンビニエンス・ストアで「官能!」とか「告白!」とか,なにやら扇情的な惹句が踊っているのを見ると,「そ〜か,そ〜ゆ〜世界なんだ」と思っていましたが,今回読んでみて,やっぱり「そ〜ゆ〜世界」でした(笑)。
 まぁ,赤江瀑の作品というのは,「My Fevorite Novels」でも書きましたように「淫靡な魔的世界」ですから,「そ〜ゆ〜世界」に馴染まないことはないんでしょうが,うぅむ,なんだかちょっと違うような気もするんですよねぇ(ファンのひいき目,と言われてしまえばそれまでですが・・・)。
 「ライオンの中庭」と「花夜叉殺し」の2編がマンガ化されています(ちなみに原作はともに『罪喰い』講談社文庫に収録されていますが,いま手にはいるのかなぁ・・・)。

「ライオンの中庭」
 日本バレエ界に登場したふたりのスター,森村洋と口羽豪。正確な技と芸術的完成をめざす森村と,大胆奔放に冒険を求める口羽。対照的な踊りのふたりの間には浅からぬ因縁があった。2匹の“ライオン”の間で心揺れる森村の妻・泉が見たふたりの決着とは…
 赤江瀑がしばしば取り上げるバレエものというか,舞踏ものです。原作者は,もちろん小説家ですから,「言葉」でもって舞踏家の「肉体」を表現しようとします。さまざまな語彙を駆使して,読者に舞踏家の「肉体」を喚起しようとします。その選択される語彙によって,作者独自の世界が創り上げられるわけです。赤江作品の魅力はまさにそこにあるように思います。
 だからそれを「画像」でもって表現しようとするとき,そういった「言葉」のもつイメージ喚起力をどれだけフォローできるかが,赤江作品の持ち味を表現し得るかにかかっているのではないかと思います。
 その点で,この作品は,残念ながら十分に赤江作品のもつ豊穣な馥郁たるイメージを表現しているとはいえないように思います。なによりこの作画者が描く「肉体」はあまりに薄っぺらです。たしかにベッドシーンを多く描いている作家さんでしょうから,それなりに雰囲気はありますが,それはあくまで「シーン」であって,「肉体」というより,お約束の「記号」でしかないように思えてなりません。
 そして一番いやだったのが,主人公の森村洋・泉夫婦と口羽豪以外の登場人物が,いかにも「アシスタントが描きました」という感じで,ぜんぜんタッチが違っていたことです。まぁ,スケジュールの関係その他があったのかもしれませんが,あんまりといえばあんまりな感じです。
「花夜叉殺し」
 庭師の妾の子として育った一花(いっか)は,鬱屈とした心を抱えながらも,みずからも庭師としての道を歩む。ある日,義兄の篠治とともに訪れた郷田家の庭は,庭としての定石を無視した奇妙な庭であった。しかしそこには人を惑わせる不思議な力があり…
 原作の方は,赤江作品の中で好きなもののひとつです。一見無造作に,横紙破りにさえ見える“庭”が,樹木の発する匂いによって,ひとつの統一された空間を作りだしているという発想が好きです。それと人間が(男と女が)そこに入り込むことによって,庭ははじめてその本来の“命”を持ち始めるという設定も,ぞくぞくさせるものがあります。人間と感応する「生きた庭」というのは,まさに庭師の求める理想の具現なのかもしれません。
 登場人物が少ないせいもあってか,「ライオン」に比べると,絵的にはそれほど苛立ちは感じられませんでした。いや,原作の雰囲気をそれなりに伝えているのではないかと思います。とくに一花が,雪降る庭で,女に無理心中を迫って死んだ庭師の剪定する音を幻聴するシーンは,なかなか幻想的に巧く描いています。
 またストーリィ的にも原作に比較的忠実に描かれている点も好感が持てました(「ライオン」の方はかなりエピソードの順番を入れ替えています)。
 ただやっぱり,登場人物のタッチ,とくにまつげがやけに目立つ眼の描き方は,ちょっと馴染めませんね。いかにも「お耽美」という感じで(笑)。

 かなり辛辣な感想文になってしまいましたが,それはわたしが原作者に対する個人的な想いが色濃く出てしまったせいで,原作を知らずに読まれた方とは,おそらくずいぶんと反応が違うのかもしれません。そこらへんをお含み置きください。

98/02/28

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