冨樫義博『レベルE』3巻 集英社 1997年

 まず,このコミック(と作者)のすごいところは,あの『週刊少年ジャンプ』,どんな大物作家であろうと,読者のアンケートで人気が出なければ10週間(=コミック1冊分)で打ち切るというシビアな『ジャンプ』で,月1回連載をしたということでしょう。

 なんとも奇妙な雰囲気を持ったコミックです。絵柄は,独特で硬質なタッチで,(連載終了直前あたりはちょっと荒れてますが)イラストのような細緻な絵です。その絵で,これまた独特な「間」をもったギャグをかまします。大声を出して大笑いとするというより,「にやり」と苦笑するような,そんな感じです。そして異様に多いネーム。これだけネームの多いコミックを読むのは,三原順の『はみだしっ子』以来です,わたしは。「友情・努力・勝利」をモットーにする『ジャンプ』のなかでは異色の作品です。

 内容は,「現在地球には数百種類の異星人が行き交い生活している。気づいていないのは地球人だけなのだ」という,矢○純○のよた話のような設定で,そこへ性格がむちゃくちゃ悪くて,美男子で,他人が困ることをするためには労力を惜しまず,なおかつ頭が異様に切れるという,とんでもないドグラ星の王子がやってきて,巻き込まれた地球人や異星人が迷惑する(笑)という話です。で,一番迷惑するのが王子の護衛官クラフト隊長でして,本来は有能で渋い軍人さんなのですが,王子とつきあっているうちに,後半だんだん壊れていきます(笑)。おまけに地球に棲んでいる異星人というのがまた変な連中ばかりでして,山形県を縄張りとするディクスン星人というのは,好戦的種族で,彼らに滅ぼされた種族は100を越えるというくせに,高校野球のファンで,みょうに純情だったりします。なんだか人のいい街のちんぴら風で,笑えます。

 基本的にはスラップスティックで,たとえば第3巻最後のエピソードは,王子以上に性格の悪いマグラ星の王女が登場,騙された王子が結婚してしまうというお話です。最後のところはなかなかツイストが効いていて,おもしろかったです。しかしときどき(といっても全3巻のうち2話だけですが)シリアスな物語が描かれます。第1巻の「From the Darkness」は,ホラータッチで,愛する相手を食べるという習性をもった異星人が,地球の女性を好きになるという悲劇を描いてます(最後のオチは違うんですけどね)。またこの第3巻の「Boy meets girl」は,人魚型異星人と地球の少年たちとの,甘酸っぱく哀しい出会いと別れを描いたエピソードです。作者自身が,どういった方向を目指しているのかはわかりませんが,硬質でイラストタッチの絵柄がよくマッチしています。スラップスティックも好きですが,個人的には,こういった作風も捨てがたいですね。

 しかしシリーズも,第3巻で終わりのようです。ここのところ好きなシリーズが相次いで終了してしまい,ちょっと哀しい今日この頃です。

97/05/06

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