和田慎二『恐怖の復活』秋田文庫 1998年

 最近,古いマンガが続々と文庫化されていて,なんともうれしい反面,その量と出版スピードに少々戸惑っている今日この頃,正直,フォロウしきれないのが現状です。今回は,わんだらさん@書庫の彷徨人から本書の出版を教えていただき,書店に急行,購入しました。わんだらさん,ありがとうございました(_○_)。

 さて本書には,初出年が掲載されていないのではっきりしないのですが,十数年前に発表された,ファンタジィ色が濃い短編が収録されています。その一部は,たしか大都社から刊行されていたのではないかと思いますが,ここ久しく書店で見かけることがありませんでしたので,やっぱり,こういった復刊はうれしいですね。

「恐怖の復活」
 伊豆沖で発見された太平洋戦争中の潜水艦。そこに2体のミイラが積み込まれていた。いったい誰が,なんのために? それが恐るべき復活のはじまりだった・・・。
 この作者がフランケンシュタイン(の怪物)をこよなく愛していることは有名ですが,ミイラ男も好きなようですね。ミイラ男,というと,なんか「呪い」というイメージがありますが(わたしだけか?),この作品では,ナチス・ドイツが発見した(んじゃないかと推測される)特殊なクロレラを,その復活の要因に持ってきたところがおもしろいです。電話をかける主人公の背後にミイラ男が忍び寄るシーンは,映画的な感じで好きです。またミイラ男を,単なる凶暴な怪物としてのみ描くのではなく,生前(?)の愛を絡めて,哀しみをたたえたキャラクタに設定しているところもいいですね。
「ポケットにティンカーベル」
 博物館に展示された“魚石”,そこからティンカーベルが現れた!
 作者の趣味がもろ出ている作品ですね(笑)。なんか,主人公とティンカーベルが,これからいろんな奇想天外な事件に遭遇する物語のプロローグのような感じのする作品です。
「アラビアン狂想曲(ラプソディ)」
 魔王にさらわれた姫を助けに,アマル・ザム・ハッサンは冒険の旅に出る!
 この作品,好きなんですよね。やっぱり『アラビアン・ナイト』の世界は楽しいです。魔法使いや悪魔,妖怪など,荒唐無稽な連中が山ほど出てくるくせに,どいつもこいつも妙に俗っぽいというか,人間くさいというか。この作品では,砂漠のど真ん中で3万人の軍勢が東村山音頭を踊るところが圧巻です(笑)。志村けんのギャグが流行った頃だったのでしょう。それと元の魔女に戻ったイーニィ・ミーニィとマーニィ・ムーのアラビア的な艶っぽさ(<どんなや!)も捨てがたいですし(^^ゞ
「吃水線」
 嵐の夜,青年は人魚を拾い・・・。
 この作品は初読です。人魚を救いに半魚人がやってくるというショート・ストーリィです。わりと因果関係をはっきりさせることの多いこの作者の作品としてはめずらしい,不思議なテイストを持った作品です。けっこう好みです。
「ラムちゃんの戦争」「さよなら林間学校999」
 小学生ラムちゃんを主人公にした巨大ロボットマンガです(笑)。全編,特撮モノ&アニメのパロディといった感じで,とくに「下級悪党組合」が笑えます。そうなんですよねぇ,メインをはれる「悪役」だったら,番組の終わりで壮絶な爆発シーンという「花道」がありますが,その周囲に「イィ,イィ」とか言って,飛び回ってる下級悪役は,「正義の味方」にあっという間にやられてしまう悲惨な存在です。労働組合のひとつも作りたくなる気持ちもわかります(笑)。それと,「トーベ・ヤンソンが怒りまっせ」と評される「ムーミン型モビル・スーツ“GB(ガバ)”」も楽しいですが,それ以上にニョロニョロみたいな「量産型」! ここらへんの発想は好きです。

 このほか,本書には,昔のテレビ番組への思いをつづったエッセイ・マンガ「わたしの好きな名場面I・II」と,あとがき風の「メイキングオブ恐怖の復活」がおさめれています。

 ところでカヴァ裏折り込みの作者紹介のところ,デビュウ年が「1981年(昭和46年)」となってますが,「1971年」の間違いでしょうね。

98/08/11

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