冬目景『黒鉄<KUROGANE>』1〜4巻 講談社 1996-1999年

 賞金首の“人斬り迅鉄”・・・あわれ草葉の露と消えそうなところ,天才蘭学者・平間源吉によって,半分人間,半分機械の“鋼の迅鉄”として蘇った。人語を話す刀“鋼丸”とともに,今日も今日とて旅の空・・・

 冬目版「股旅もの」です。
 わたしにとって「股旅もの」というと,やはり中村敦夫演じるテレビ・ドラマ『木枯らし紋次郎』です。一世を風靡した「あっしには関わりあいのねえことでござんす」というセリフで,さまざまな柵を拒否しながら,それでも事件に巻き込まれていってしまう紋次郎の姿は,本編の主人公迅鉄に重なるものがあるように思います。いや,迅鉄の方が,滞在する町で「地元の親分さん」のところに草鞋を脱がず野宿を続けており,その拒絶はより徹底したものと言えましょう(もちろん,迅鉄がサイボーグであるという設定によるところもあるでしょうが・・・)。しかしそれでも彼は事件に巻き込まれます。柵を拒絶しながらも,否応なく柵に巻き込まれていく,「股旅もの」のドラマ性はまさにそこにあるのでしょう。
 その,柵がもたらすドラマ性がよく表れているのが,「第五幕 THE MAN WITH THE CHILD IN HIS EYES(少年の眼を持った男)」でしょう(時代劇ながら,各エピソードに英語のタイトルがついているのも,この作品のユニークさですね)。迅鉄が子どものときに兄のように慕った友人諒次郎,かつて「人間」だった頃に一緒に仕事をしたことのある渡世人練司,そのとき誤って斬殺してしまった旅芸人の子どもお響志郎の姉弟などなど・・・迅鉄をめぐる浮き世の柵が二重三重に絡み合いながら,ストーリィは進行していきます。その中で,それぞれのキャラクタが抱え込んでいる苦悩やわだかまり,希望が語られます。クライマクスでの立ち回りシーンの迫力もさることながら,それらキャラクタが織りなすドラマ性こそが,本エピソード,いやさ本作品の魅力なのでしょう。

 さて本作品を読んで改めて思ったのが,この作者,女性キャラの造形がじつに巧いですね。それも単にきれいだとか,かわいいとか言うのではなく,それぞれの個性と造形とが一致している点,見事と言えます。たとえば迅鉄をつけ狙いながら,いつまにか奇妙なコンビを組むことの多い「紅雀の丹(まこと)」,「女」であることを捨てた彼女ながら,死んだ練司への想いを胸に秘めたその姿は,どこか恋を知り始めたボーイッシュな少女の初々しさを漂わせています。その対極に位置するのが,「第八幕 CRIMSON(薊の道者)」に登場するお焔ですね。オープニングで迅鉄に「兄さん 一杯如何?」と酒を勧める姿の色っぽいこと! 「女の武器」を自覚的に最大限利用しようとする彼女のキャラクタをこのワン・シーンで的確に描き出しています。同じような「ヤクザ」な女でも,「第十幕 RAMBLING(操賽の女)」朱女(あやめ)は,むしろ陽性で,壺を振るときの鋭い眼差しと,普段の陽気な目元とのコントラストがよいですね。
 そのほか,「第七幕 STRANGE PARADISE(沈黙の肖像)」お勢や,「第十一幕 WHISPER DOLL(雪暮夜心中追分)」響(おと)など,まさに「人形的な美しさ」が,その無表情さに十二分に表されている一方,「第九幕 MASK(仮面)」の少女水葉のちょっと垂れ眼で丸顔の造形は,彼女の,兄を心配する健気さを伝えています。
 いずれにしろ,この作品の魅力が,これら多種多彩な女性キャラクタに負うところが大きいのはたしかでしょう。

01/05/18

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