ゆうきまさみ『パンゲアの娘 KUNIE』2巻 小学館 2002年

 「ゆくゆくはお父さんみたいな普通のサラリーマンになって−ほどほどに生きるんだ! 
か…「完」ってなに? いいのか,それで……」
(本書より 陽のセリフ)

 クニエを拉致しようとする謎の男女。彼らの背後にはイギリスのランゲルハウス財団が控えていた。財団の長・ランゲルハウス伯爵は,カラバオ周辺に「タイムホール」が存在すると信じているのだが……一方,「塔」に攻撃を仕掛けた米軍に,謎の「怪物」が襲いかかる。カラバオをめぐって事態はしだいに動き始めるが,日向陽にとっての重大事は,リンガナエをママの目から隠すことで……

 さて海洋冒険ロマン・ホームコメディ(笑)の第2巻であります(ちなみにカヴァ裏の「あらすじ」には「夢と冒険のSFファンタジー」という惹句がありました)。
 クニエに謎の魔手が迫る! という感じで,本巻は始まるのですが,そこらへん,例によってこの作者,なかなかおまぬけな展開で笑えます。とくに「ああ−英和辞典の」とか,「覚えてるでしょ!? 大阪万博,EXPO'70」といったおとーさんのボケがいいですね(世代的にも親近感,感じるし(笑))。でもおかーさんから「案外,ヒトが悪いのね」と言われるように,そこらへんはやっぱり「大人」。こういう風にさりげなく大人を描けるところが,この作者の魅力のひとつでしょう。
 しかしもちろん,この物語の主人公は子どもたちです。今回,日向陽は,クニエを家に戻すため,柳葉まひる恭一らと協力して,謎の二人組を攪乱しようと「作戦」を立てるのですが,その「作戦」,いかにも子どもっぽいというか,穴がありまくりです(笑) ただ,なんというのでしょうか,子どもがなんとかして大人を出し抜こうと頭をひねるということ,あるいはそれにともなう緊張感と不安,そしてなにより「ワクワクドキドキ」感というのは,やはりありましたよね。一種,いたずらをたくらむ時の心持ちといえましょうか。

 さて一方,カラバオ沖の洋上に出現した「杭」をめぐって,新キャラDr.マカロフが登場します。一番弟子(?)のユージンとコンビを組んで,「杭」を調査するのですが,どうもこのふたり,一筋縄ではいきそうにない雰囲気があり,一癖も二癖もありそうです(なんか,『機動警察パトレイバー』に出てきた内海課長に通じる「うさんくささ」がありますね)。
 そして米軍が「杭」の周囲に爆雷を投下,すると「杭」はみずからを防御するかのように,周囲に岩の壁を張り巡らし,さらに巨大卵から怪獣が出現! 米軍駆逐艦に襲いかかります。ところが怪獣は,米軍からの機関砲の攻撃をものともしないにも関わらず,まるで幽霊のように駆逐艦を「通り抜けて」しまいます。
 この点は「杭」の「性格」を考える上でポイントになるように思います。つまり「杭」は,攻撃者に対して「威嚇」という形では反撃はしますが,相手に対して物理的なダメージを与えることはない,という可能性があるからです(「岩の壁」というのも,あくまで「防御」なのでしょう)。そうだとすると,今後,米軍が本格的な攻撃を仕掛けてきたとき,果たして「杭」は対抗できるか? そこにクニエや陽が,どのように関係してくるのか? そのあたり,どうせこの作者のことですから(笑),もうちょっと先の話になるのでしょう……

02/01/23

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