篠原千絵『凍った夏の日』小学館文庫 1995年

 『闇のパープルアイ』『海の闇,月の影』などが有名な,この作者の作品は,前々から読みたいとは思っているのですが,これらの長篇のあまりの長さについ二の足を踏んでいます。で,ならば短編集を,ということで,古本屋で見つけた本書を購入,読んでみました。
 ミステリ7編がおさめられています。どこか「2時間サスペンスもの」風の感じも強いですが,いくつか楽しめた作品もありましたので,気に入った作品についてのみコメントします。

「凍った夏の日」
 ひとり留守番をする杳子,そこに銃を持った若い男が突如侵入し…
 平凡な夏の日が暗転,人質となった少女の恐怖と緊張感,そしてふたりの間に流れる微妙な感情,このまま(ちょっと奇妙な)ラヴロマンスへと展開するのかな,と思いきや,ラストでのツイスト。これはなかなか驚かされました。読んでいるとき,少々不自然に思われたピストルをめぐるエピソードも,ラストにうまく活かされているように思います。本作品集では一番楽しめました。
「午前0時の逃亡者」
 逮捕直前に逃亡した殺人容疑者・村瀬。和美は彼から「君がボクのアリバイを証明してくれるはずだ」と言われるが…
 ストーリィ展開としては多少もの足りない部分がありますが,ところどころのシーンにゾクリとくるいい雰囲気があります。たとえば真犯人の運転するタクシの助手席に座っている人形とか,階段の隙間から和美の足を握る犯人とかいったシーンです。とくにラストで,井戸に落ちかけた真犯人が,和美の長い髪の毛をつかんでぶら下がるところは,サスペンスフルで,また「髪の毛」に執着する犯人像の設定と巧くマッチします。
「自殺室ルームナンバー404」
 入居者の自殺が続く404号室。その部屋に引っ越した衿子の周囲では奇妙なことが続発し…
 他の作品の初出はいずれも少女マンガ誌ですが,この作品だけが『女性セブン増刊 Wink』(いわゆる“レディス・コミック”でしょうか?)。ですから濃厚なベッドシーンなんかも出てきて,本作品集ではちょっと異色です。いわくつきのマンション,三角関係のもつれ,主人公の友人の飛び降り自殺,主人公の周囲で起こるホラータッチの怪現象などなど,ありがちといえばありがちなのですが,二転三転するラストがいいですね。途中で主人公が“計画”する殺人もラストでふたたび効いてくるところも楽しめます。
 ただ「404号室」というところが,あまりにコテコテな感じですね(苦笑)。

98/07/07

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