奥瀬サキ『コックリさんが通る』2巻 小学館 1997年

 主人公は3人の少女,大塚狐子,天野圭狗,そして大森狸花子。3人は,それぞれ狐・狗・狸の「血」が混じっている「蠱族」の末裔。つまり3人あわせて「狐狗狸=コックリさん」です。そして狐子は炎を(“狐火”というのでしょう),圭狗は風をあやつります。狸花子は今のところ不明,最初は「力」が退化している,というような感じでしたが,どうやらそれは封印されているらしい,というのが本巻で臭わされます。使える「力」は,(おそらく)「いかづち」。「土地に憑かぬ者の最後に流れ着く街」新宿を舞台に,少女たちの異形のものに対する闘いを描いた第2巻です。

 この作者の作品,『低俗霊狩り』『火閻魔人』『支配者の黄昏』などなどは,吸血鬼やら狼男,憑き物やら鬼などの異形のものたちがオンパレードですが,この作品も,やはり同じように,主人公3人とともに,犬神や鴉爺,それにどうも獅子男(?)らしい男やらが,縦横無尽に駆けめぐります。このあたり,夢枕獏や菊地秀行の世界を彷彿させるというか,そのまんまというか,少なくともその影響が色濃く出ているように思えます(それと,平井和正の『ウルフガイ・シリーズ』とか・・・)。ただこの作者の描く異形,とくに主人公たちの「異形の力」は,ある種のメタファーのように思えてなりません。なんのメタファーかというと,(恥ずかしながら)「青春のもやもや」「ぎらぎらの若い力」とでもいうようなものです。どこか躰の奥底から湧き上がり,自分でもコントロールできず,持て余してしまいそうなパワー。それが明確な方向に向けられないだけに,よけい始末の悪いエネルギー。彼女たちの「異形の力」は,そんな誰もが持っている(持っていた)「もやもやとして,ぎらぎらとした力」を,象徴しているように思えます。だから,基本的にはアクションシーンをメインとしたヴァイオレンスものといえないことはないのですが,どこかに妙にやるせない,そしてせつない雰囲気が漂っています。「青春」なんて,思いっきりギトギト,ドロドロ,グチャグチャしているくせに,やっぱりせつなくて,やるせないものですからね,困ったことに(笑)。

 さて,本巻では,天野狐子の「力」が顕現するエピソード(「迷い猫,迷い狐」)の後半,そして大森狸花子の「正体」が明らかになる(かもしれない)「ボクが無くしたキミの夢」の前半(?)がおさめられています。いよいよ3人の「力」が全面展開,という感じなのですが,ちょっと不安なのが,巻末が「To Be Continued」となっていることなんですよね。普通だったら単なる「つづく」という意味合いなんですが,『低俗霊狩り』2巻が,エピソード未完のまま,やはり「To Be Continued」になっていてい,しっかり続いていない,という前科(笑)がある作家さんだけに,こうことさらに「つづく」と出されると,かえって安心できません(ひでえ,ファンだな,わたしは)。ともかく3巻が出ることを祈りましょう・・・(しかし,なんでわたしは「この手の作家」ばかり,好きになるんでしょう。不実な恋人を持って苦労するタイプなのかもしれません(泣き笑い))。

97/09/11

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