久住昌之・谷口ジロー『孤独のグルメ』扶桑社 1997年

 本書を買うのを,じつはかなり迷ったのです。原作の久住昌之,彼が原作した『ダンドリ君』(泉晴紀作画)が,なんとも好きになれない作品でした。いやはっきりいいましょう。あのいじましさ,せこさが大嫌いでした。一方,作画の谷口ジロー。彼の『犬を飼う』は何度読んでも,読むたびに目頭が熱くなりますし,『歩くひと』はストレスでささくれ立った気分を鎮めてくれます。そのふたりのカップリング,迷うなという方が無理というものです(心理学で,こういうのなんていいましたっけ?)。まあ,結局「えいやっ!」で,買ってしまったわけです。

 主人公は個人で輸入雑貨の貿易商を営む男。年齢は30歳代前半くらいという感じで,独身。とういうわけで,どうしても外食が多くなる。で,仕事の合間合間に,あちこちで食事をするわけです。そんな食事のエピソードが1編10ページ,計18編おさめられています。

 やっぱりマンガは「絵」なんだな,というのをしみじみ感じました。主人公が食事しながら店の客やら雰囲気に,神経質な感じでグダグダと考えるところや,1編1編の食事に蘊蓄をたれるような「解説」をつけるところは,いかにもこの原作者らしいという感じで,やはりいまいち馴染めなかったのですが,谷口ジローの絵で描かれると,「気に障る」というほどではありませんでした。たとえ主人公が,店の雰囲気に馴染めず,「どっか違うんだよな」なんて思っていても,谷口ジローお得意の細密なタッチで描かれると,そんな違和感が「敵意」に変わることなく,それはそれで不思議に魅力ある空間に変身してしまうのです。読み終わって,ふと思ったのは,これは久住昌之の原作とはいえ,いわば『歩くひと』の食事ヴァージョンなんだと思いました。そんな,心をなごませ,鎮めてくれる作品です(もしかすると,『ダンドリ君』に対する反感も,作画者の絵柄に負う部分も大きいのかも・・・)。

 何編か,原作者の持ち味よりも,作画者の個性が出ているような作品(と,わたしが勝手に思っているだけですが)も含まれています。たとえば「第12話 東京都板橋区大山町のハンバーグ・ランチ」では,中国人留学生のアルバイトに口汚くあたる店主に対して「モノを食べる時はね,誰にも邪魔されず,自由で,なんというか救われなきゃあ,ダメなんだ。ひとりで静かに豊かで・・・」と言います。こういったことは,この原作者の場合,心で思っても,あまり発言しないタイプの主人公が多かったように思います(もっとも,言う言わないは別にして,このセリフがこの作品のテーマのひとつだという気がします)。また「第13話 東京都渋谷区神宮球場のウィンナーカレー」では,炎天下のもと,主人公は上半身裸になって,甲子園を目指す甥を応援します。こういった「なりふり構わず」的な雰囲気も,原作者よりも作者の持ち味のように思えます。まあ,以上のことは原作者に対するわたしの偏見かもしれませんが・・・(久住ファンの方,乞うご容赦!)。

 さて,風呂に入りながら,もう一度読みかえそうっと。最近ストレスたまってるからなぁ(笑)。

97/10/28

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