星野之宣『コドク・エクスペリメント』3巻 ソニーマガジンズ 2001年

 ついに激突したデロンガとバグレス准将。重力シールドを駆使するバグレスが,デロンガに,そしてガイとブットに襲いかかる。彼女の暴走は,艇内を壮絶なバトル・フィールドへと変えていく。ガイとブットは生き延びることができるのか? そしてデロンガに隠された秘密とは?

 いよいよ最終巻であります。本巻のまずのメインは,なんといってもバグレス准将と,デロンガ=キャノンガイブットとの壮絶なバトル・シーンでしょう。重力シールドで身を守り襲いかかるバグレスに対し,いかに対抗するか? ここらへんの,一種の「タイム・リミットもの」的なサスペンスあふれる展開は,つねにSF的であるとともに,冒険小説的なテイストを盛り込むことに熱心な,この作者お得意のパターンですね。そして対重力フィールドのクライマクス・シーン,思わぬところからシールドの弱点が明らかになり,一発逆転。ここらへんも「あ,なるほど」と思わせるミステリ的ツイストで楽しめました。
 でも個人的には,重力シールドを用いたバグレスよりも,単身で戦う彼女の方が好きです。「よう脚があがるもんだ」(笑)と感心させる脚技は,悪役とはいえ,じつに見事なものです。3人の兵士を,あっという間に倒してしまうところは,非情ながら妖しい美しささえ感じますね。

 そしてラスト,デロンガの「正体」が明かされます。ここでおもしろいな,と思ったのはデロンガの設定です。当初,デロンガは瀕死の惑星・デロンガVアルファ上で繰り広げられた生存競争の勝利者のような感じでした。つまり,バグレスが仕組んだ「コドク・エクスペリメント」と同じシチュエーションであると思われていたわけです。しかし,デロンガ=キャノンの言葉から,じつはデロンガは,デロンガVアルファに棲む生命体の,いわば「共生体」であることが明らかにされます。
 ここでバグレスの「コドク・エクスペリメント」とのコントラストが鮮やかに浮かび上がります。バグレスによって作り上げられた「強制的な生存競争」の元で生まれたさまざまなコドク=生物兵器は,いずれも無惨な末路をたどります。イニシャルしかり,アヴァロン兵しかり。そして「K−ソルジャー」であるバグレスさえも,改造の結果,急速な細胞自死現象という副作用のため,ダミーのアンドロイドを使わざるを得ませんでした。ガイが言うように,すべてがいびつで歪んでいます。それが「コドク・エクスペリメント」という強制的な「進化」がもたらした結末です。
 対するデロンガの強靱なまでの生命力は,そういった苛酷な生存競争ではなく,他の生命体をみずからのうちに取り込み,いろいろな遺伝子情報を蓄える「共生体」だからこそ生まれたものです。このバグレスとデロンガの違い,それは生命の「進化」をめぐる決定的な対立を映し出しているように思います。
 本当に「進化」は,生き延びるための「強さ」は,闘いの中でした生まれないのか? あるいは,利己的な行動のみが進化を,強さを生み出すのか? それとも利他的な行動が進化と強さの生みの親ではないのか? そんな問いを発しているようにもに思います。
 ですから,戦うためだけに生み出されたイニシャルのガイとブットが,ラストでお互いに「おまえのために戦う」「あんたのために戦う」と誓いを交わすシーンこそが,本編におけるその「答」なのではないしょうか?

01/04/14

go back to "Comic's Room"