星野之宣『コドク・エクスペリメント』2巻 ソニーマガジンズ 2000年

 宇宙連邦軍巡洋艦・ペンドラゴンに侵入したデロンガに対して,バグレス准将は,つぎつぎと生物兵器を投入する。その結果,ペンドラゴン内部は,さながら,20年前の“デロンガVアルファ”上の実験“コドク・エクスペリメント”の再現となった。一方,裏切り者のベクターを追うガイは,弱肉強食の地獄絵図の中で,自分とデロンガとの因縁を知ることになる・・・

 「言葉」というのは,やはり不思議なものです。まったく異なる脈絡の中で使われていると,それぞれの言葉はまったく異なる意味を持っているように,つい考えがちです。そんな異なる言葉がじつは隠し持っていた相似た性質を発見し,結びつけることで,物語を紡ぎ出すのが,作家さんの力量のひとつなのかもしれません。
 この作品の着眼点の秀逸さは,「蠱毒」という,古代中国の呪術にまつわる怪しげな言葉と,「生物兵器」という,SFならではの,やはりそれはそれで怪しげな言葉とを結びつけた点にあると思います。そう,「蠱毒」とはまさに古代の(想像上の)「生物兵器」なのです。もちろん,伝説や神話に描かれる奇想天外なエピソードをSF的に換骨奪胎する手法は,しばしば見られますが,その際には,ミス・マッチに見えながらも,「ああ,なるほど,そうか」と思わせる近似性をどれだけ見せるかがポイントになると思います。そういった意味で,この作品における「蠱毒」と「生物兵器」とのカップリングは,きわめてうまく行った例ではないかと思います。

 さて物語は,舞台を宇宙連邦軍巡洋艦ペンドラゴンに移し,生物兵器同士の壮絶なバトルへと展開していきます。その生物兵器の造形が,じつにおぞましくていいですね。蜘蛛の化け物みたいのやら,蜂の化け物みたいのやら,イソギンチャクの化け物みたいのやら,ミミズの化け物みたいのやら・・・わたしのお気に入りは,外形は2足歩行のトカゲ系と,さほど造形的にユニークというわけではないのですが,イソギンチャクの化け物みたいのに喰われてしまう刹那,腹からその子どもみたいのがワラワラと出てきて,親の仇(?)を討つという生物です。思わず「生物学的に良くできてる!」と思ってしまいました(笑)。
 さらに主人公のガイもまた,デロンガに“寄生”され,モンスタへと変貌していきます。おまけに“コドク・エクスペリメント”を実施したバグレス准将も,じつは軍隊によって改造された“K―ソルジャー”であり,彼女もまた,一個の「生物兵器」であることが明らかになります。つまり,“コドク・エクスペリメント”をコントロールしている彼女もまた,もしかすると「蠱毒」の中の“一匹”である可能性が匂わされてきたと言えましょう。
 そして,ガイ,バグレス,デロンガが,奇妙な因縁で結ばれていることが判明し,ストーリィはいよいよクライマクスへと突入しそうな雰囲気です。次巻が最終巻かな?

 最後に不満と不安をひとつずつ。
 まずは不満ですが,本作品には,かなりCGが用いられています。とくに宇宙船を描くシーンに多用されているのですが,CGで描かれた場面は描線が甘く,この作者のシャープなタッチの絵柄が好きなわたしとしては,そのギャップに違和感が拭えませんでした。
 不安はというと,今後の展開とヴォリュームとの関係です。本巻ラスト,デロンガとバグレス准将とがついに遭遇します。デロンガには,准将によって見殺しにされたキャノン伍長の復讐心が植え付けられています。つまり,いよいよクライマクスへと突入する気配なのですが,果たしてあと1巻分もあるか? と思います。さらに1巻続ければ,やや冗長になるのではないかと思いますし,2〜3回分で終結するならば,次巻刊行が,大幅に遅れる可能性があります。さてさてどうなるでしょうか・・・

00/10/10

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