星野之宣『コドク・エクスペリメント』1巻 ソニー・マガジンズ 2000年

 巨大惑星の潮汐力によって崩壊した衛星・デロンガVアルファ。その,宇宙に飛散した破片の中から一体の“生物”が回収された。それが目を覚ますとき,閉ざされた宇宙船は地獄へと変貌する。20年前,デロンガVアルファ上で行われた非情の実験“コドク・エクスペリメント”が生み出したもの“最強の生物”とは・・・

 書店で本書の不思議なタイトルを見たとき,「コドク」というのは「孤独」のことだろうか? などと思ったのですが,なんと「蠱毒」のことなんですね!
 毒を持った生き物をひとつの壺の中で闘わせ,最後に生き残った生き物から最強の猛毒を抽出する中国古代の呪法“蠱毒”。それをSFでやってしまおうというところがなんとも凄い発想です。SFと伝奇,両方のジャンルで秀作を描いてきた,この作者ならではのユニークな着眼と言えましょう。

 さて物語は,崩壊直前のデロンガVアルファからはじまります。「コドク・エクスペリメント」のために置き去りにされたキャノン伍長は,肉食動物同士の弱肉強食の闘いに巻き込まれ,不思議な生物に襲われます。
 そして舞台はその20年後,崩壊したデロンガVアルファを調査しに来た宇宙船オルガネラへと移ります。衛星の破片の中から回収された“生物”が目を覚まし,船員たちに襲いかかります。どこにいるかわからない“生物”によって,つぎつぎと殺されていく船員たち。ここらへんのサスペンスたっぷりの展開は,映画『エイリアン』を彷彿させますね。またその殺害方法は,なんともグロテスクでありまして,スプラッタ・ホラーに通じるものもあったりします(笑)。

 さらに,この作品のおもしろいところは,その生物に対抗するキャラクタとして「イニシャル」と呼ばれる,人工子宮によって生み出された純粋培養の軍隊を設定している点にありましょう。
 襲いかかる“生物”は,デロンガVアルファ独特の生物であるとともに,その内部にキャノン伍長を取り込んでいる可能性が,冒頭において暗示されています。つまり,この“生物”が軍の(バグレス中尉の)“コドク・エクスペリメント”によって生み出された可能性があるわけです。そういった意味で,「イニシャル」と,この“生物”との闘いとは,軍隊の非情な論理から生み出されたもの同士の闘いと言い換えることもできるのではないでしょうか? さらに,宇宙連邦軍巡洋艦“ペンドラゴン”に移った“生物”に対して,軍は,新たな秘密兵器“アヴァロン”を投入します。
 謎の“生物”,“イニシャル”,“アヴァロン”――軍隊によって生み出された彼らの闘いこそが,じつは“コドク・エクスペリメント”と言えるのではないでしょうか?

 この闘いの果てに,最後に生き残るのは何者なのか? 物語はますますヒート・アップしていきます。

00/03/25

go back to "Comic's Room"