日渡早紀『記憶鮮明』白泉社 1985年

 ふと入った古本屋に並んでいました。「おや,なつかしや」ということで買いました。近未来のアメリカを舞台にしたSFサスペンスです。

「記憶鮮明」
 20××年,ニュー・ヨークは謎の爆弾テロ事件に襲われていた。少女スリ,パセリ・モーガンは,その爆破事件に巻き込まれ,死亡。しかし死の間際,彼女は犯人を“見た”と証言。彼女の細胞から3人のコピー人間がつくられるのだが,彼女たちは“生前”の記憶をほとんど失っており…
 コピー人間,瞬間移動,幽体離脱……いま読み返すと,なんだか西澤保彦を思い出させる作品ですね(笑)。サスペンスあり,コメディあり,ラブロマンスあり,“コピー人間”のアイデンティティの確立をめぐってのシリアスあり,と,アメリカのエンターティメント映画へのオマージュが色濃く感じられる作品です(作中で映画ネタもけっこう出てきます)。
 この作品は,デビュー直後の「早紀ちゃんシリーズ」「悪魔くんシリーズ」など,どちらかというと「エピソード」主体の連作から,『ぼくの地球を守って』に代表されるような「ストーリー」主体の作品へと移行する,ターニング・ポイントとなった作品ではないかと,わたしは勝手に思っています(たしか『ぼく地球』には,連載当初,「記憶鮮明 in Tokyo」というサブタイトルがついていたような・・・・)。

「そして彼女は両目を塞ぐ」
 超能力者であることがわかった3人組は,EPIA(国際連邦科学情報局)のESPセクションで働くことになる。そして,そのうちのひとりリズは,同じセクションのジョジョと同棲しはじめる。ところがそのアパートの隣人で超能力者のナンシーが,殺人犯として自首し…
 じつをいうと,「記憶鮮明」よりも,こちらの作品の方が好きなのです。まず絵柄的に,前作は,ある種「同人誌的」なゴチャゴチャした感じ(この比喩には偏見があるなあ(^^;)を残しているのですが,この作品では,スッキリとタイトな絵柄になり,非常に読みやすいです。
 それとクライマックスがなによりいいです。ナンシーは,じつは真犯人である恋人をかばっているのですが,警察の現場検証で,彼女が真犯人ではありえない,ことが証明されます。というのは,目撃者の証言で,犯人はサングラスを掛け,うつむいて歩いていたことになっているのですが,彼女にはそのサングラスが大きすぎ,うつむくとずり落ちてしまう。何度やってもずり落ちてしまう。最後に,サングラスを落とした彼女の瞳には涙が・・・,というシーンです。緊張感のある,そしてもの哀しい名シーンだと思います。タイトルも,要するに「愛は盲目」ということなのですが,なんともしゃれていてかっこいいですね。

97/08/04

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