坂田靖子『記念写真』双葉社 1993年

 「ショート不思議ストーリーズ」というサブ・タイトルのついた本書には,不思議な奇妙な手触りの短編12編をおさめています。
 気に入った作品にコメントします。

「窓をこえて……」
 男と別れた直後,引っ越しした先の部屋には似合わぬ窓がついており…
 最初に読んだときは「え?」という戸惑いがあったのですが,読み返してみて,「なるほど」と納得しました。作画に苦労したと思いますが,日常生活にぽっかり開いた(文字通り)「異界の窓」を,うまく描いているのではないかと思います。
「昔の顔」
 子どもの頃はかわいかったけれど,いまでは十人並みのご面相。そんな彼女は奇妙な薬を見つけ…
 「若返る」という願望はおそらく多くの人々が持っているものでしょうし,美容方面では重要なキーワードになっていると思います。そんな風潮を逆手にとったような作品です。たしかに「顔だけ」10年若返ったら怖いですよね^^;; ところで,掲示板でも以前話題になりましたが,最近のマンガって,成熟した身体と幼い顔立ち,というパターンが多いですよね。
「日本の夏」
 田舎に嫁入りしたつやさんは,「おかーさま」から庭の草むしりを頼まれ…
 草むしりで見つかった子供服にくるまれた骨,というミステリ・タッチの作品。ミステリとしては,前ふりのひとつもほしいところではありますが,いかにもありそうな話で楽しめます。
「逃亡者」
 夜中,突然やってきた恋人は,人を自動車で轢いたから逃げると言い…
 オープニングは,すごく重いネタなので,どうなるなのだろうと不安だったのですが,ラストで爆笑。「酒気帯び運転」がポイントですね。ミステリのフォーマットを巧みに利用する手際は,あいかわらず冴えています。本作品集で一番楽しめました。
「デルモとクリスマス」
 クリスマス・イヴの夜,隣の部屋の前には外国人の美形のおにいさんがすわっており…
 この作者お得意の奇妙なテイストの展開から,ラストで一瞬どきり,さらにホッとさせる着地がいいですね。
「真夜中のラーメン」
 死んだお父さん以外食べなかったカップ・ラーメンのカップが台所に捨てられており…
 いなくなってしまった人の思い出というのは,ときとして,あまりに日常的で普段は目に留めないような物事に宿るのかもしれません。そんな日常的なカップラーメンというアイテムを使いながら,へんにドラマチックにすることなく,淡々と描きながらも,せつない物語に仕上げています。

99/09/04

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