ゆうきまさみ『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』21巻 小学館 1999年

 表紙カヴァは,若き日の渡会健吾&千草夫妻であります。現在のふたりの関係を如実に表したカットになっています(昔からそうだったんですね^^;;)。

 というわけで,夫妻がかつてかけおちしたことがあるという,衝撃の過去(笑)が明るみになる21巻です(茫然とする駿平&渡会四姉妹の顔が笑っちゃいます)。牧場の生活に耐えられず,東京に帰ろうとする健ちゃんに,ちーちゃんがくっついて行ってしまったという,若かりし頃のドラマチック・ローマンスです。
 シビアでリアリスト,梅ちゃんから,「しわい」だの,「鬼」などと呼ばれているおかーさんも,けっこう情熱的だったんですね(笑)。「おほほほほほほほほほほ 母さんを甘く見ないでちょうだいよ!」と高笑いするおかーさん,思わず拝みたくなってしまいます(笑)。
 で,牧場や馬への想いと,駿平に対する恋心の相克に悩み,牧場を継ぐであろう自分が駿平の将来を縛ってしまうことになるのでは,と不安を抱くひびきは,そんなおかーさんの「過去」を聞いて,なんだかふっきれたような,肩の力が抜けたような感じです。「だからあんたたちも,好きなようにやってみたらいいのさ」というおかーさんのセリフが効いたのでしょう(やはり「亀の甲より年の功」ってやつですな)。でも,ひびきちゃんは,千草おかーさんの性格を一番色濃く継いでそうですから,こんな情熱的な側面もじつは隠し持っているのかもしれませんね^^;; 
 ところで仲直りのキスの前の「むにむに」がなんともかわいいです(^^ゞ

 では,ふたりの恋の行方は順風満帆かというと,そうは問屋がおろさない(<死語)。なにしろあまりに住環境が悪い!(笑)。
 寮の駿平の部屋で会えば,梅ちゃんがのべつまくなし顔を出すし,ひびきの部屋にいても,渡会一家総梅ちゃん化状態です(これは爆笑ものです! でもたづなちゃんだけが例外なのが,ちょっとせつなかったりします)。街中で一緒に食事をすれば,顔見知りばかり(なつかしのシゲさんまでいます),牧場の周りにはラヴホテルもない(ひとつだけあるようですが,「ぼろっちい」ようです^^;;)。
 そんな「ふたりだけの場所」がまったくない中,ひびきの「聞かれたら困るような話・・・ゆっくりしたいねぇ」というセリフ・・・なんだかほほえましくてせつなくも,ちょっとエロチックで,いいですねぇ(=^^=)。

 さて,本巻後半は,秋の天皇賞に向けてのストライクイーグルネタです。このエピソードで作者は,調教師たちの姿をクローズ・アップしています。イーグルの野々村調教師ベエルキャップの新米調教師保科,一見やさしそうで,その実「怖い」ところもしっかり持っていそうな小寺調教師,そしてイーグルの宿敵ヤシロハイネス川尻調教師などなどです。
 これまであまり描かれませんでしたが,ジョッキィをのぞけば,彼らこそ,競馬という「戦い」の最前線にいる人たちでしょう。作者は,いろいろなタイプの調教師を造形しながら,彼らの群像を描き出していきます。とくに,冷徹で完全主義的な川尻調教師の辛い過去が,さりげなく挿入されるあたり,脇役へもバランスのとれた目配りを忘れない,この作者ならでは心憎いシーンと言えましょう。

 ところで,「STEP216 それぞれの秋[その9]」の表紙―梅ちゃんの「せうけら」―には,大笑いしてしまいました。この作者も京極夏彦読んでいるんでしょうかね。梅ちゃんのキャラクタによくマッチしているところもいいですね。

99/12/16

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