ゆうきまさみ『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』20巻 小学館 1999年

 念願の「熱い一夜」を過ごした駿平ひびき。ところが,浮かれまくる駿平に対して,ひびきの態度はやたら冷たい。しだいにふたりの間はギクシャクしはじめ・・・

 少々関係ない話からはじめて恐縮ですが,わたしが少女マンガを読み始めたきっかけというのは,当時,「スポ根」全盛だった少年マンガに,いい加減嫌気がさしていて,少女マンガの描く「恋」の世界が,とても新鮮に感じられたからです(まぁ,身も蓋もない言い方をすれば,要するに「色気づいてきた」ってことなんでしょうが・・・^^;;)。
 そんな風にして少女マンガにはまっていったわけですが,やはり,「慣れ」「飽き」というものは避けがたいものでありまして,たしかに「恋愛」は,少年少女にとって大きなテーマとはいえ,「そればっかり」の世界には辟易してしまうようになりました。つまり「恋愛以外にも,いろいろあるだろうが!」という気持ちが強かったわけです(もちろん,いま思い返せば,そういった作品ばかりというわけではなく,いろいろなタイプがあり,現在でも読み続けている作家さんは,そんな「恋愛オンリィ」以外の作品を描かれていた方が多いですね)。

 さて,なんでこんなことを書いたかという,本巻での展開が,「恋愛」というものを非常に相対的に,「日常」の中でとらえているように思うからです。駿平とひびきの,「恋の成就」としての「熱い一夜」。しかしそれはけしてゴールではありません。セックスは,あくまでふたりの恋の一通過地点であり,「その後」も彼らの関係は続いていきます。
 浮かれる駿平は,ひびきへのプレゼントを買うため,仕事に遅刻してしまいます。それを怒るひびき。駿平は,彼女が怒る理由がわかりません。ひびきは言います。
「あたしがなして,怒っていたか,わかってくれないかぎり――あたしはそれ(プレゼント),受け取れない」
と。
 ひびきはなによりも牧場を愛し,馬を愛しています。自分が,そして駿平が,(言葉は悪いですが)色恋沙汰にかまけて,馬たちに迷惑をかける自分が嫌でたまりません。
「駿平と抱き合うのは,とても気持ちが良い。だけどその時,仔馬たちは置き去り。駿平があたしを想ってくれると,馬たちが置き去り。あたしが駿平を想うと―――― ならばあたしは駿平の気持ちに応えられない――くるしい。」
「何かでブレーキかけないと,二人して変になっちゃう・・・・」

とひびきは涙を流します。それは「恋」という「非日常」が生活の中に入ってきた彼女の戸惑いであり,苦しみなのでしょう。
 この作者のこれまでの作品は,『究極超人あ〜る』にしろ,『機動警察パトレイバー』にしろ,設定はまったく異なっていますが,日常生活のディテールを丹念に描き込んでいくという特徴があります。本作品では,その「日常」がメインとなるわけですが,駿平とひびきとの「恋」もまた,そんな「日常」のワン・シーン,一部として描き出されています。
 最近では,少女マンガだけでなく,少年マンガでも,さまざまなタイプの「恋」を描くようになってきています。しかし,少年マンガで,この作品のような(セックスを含めた)「あたりまえの恋愛」「日常としての恋愛」を描いた作品は,とても稀少なのではないでしょうか?(「恋」の描き方は,少女マンガの方が「一日の長」がありますが・・・)

99/09/23

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