ゆうきまさみ『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』17巻 小学館 1998年

 ついにひびきを,デートに誘い出すことに成功した駿平! おめでとう!
 前日に,何を着ていこうかと悩むひびきちゃんの姿や,つい視線が相手の身体のあちこちをさまよってしまう駿平,別れ間際に「ちら」と振り返る駿平に「しゅた」と腕をぎこちなく振り上げるひびき・・・う・・・う・・・,いいですねぇ,初々しくて・・・。こういった細かい描写で,その雰囲気を,けっして無理矢理でなく盛り上げるところは,やはりこの作者の技量なのでしょう。
 思わず,おじさんにもね,おじさんにもね,大昔にね,こんな時代があったんだよぉ〜〜,と叫びだしたくなってしまいます(笑)。
 でもたづなちゃんとのことが残っている駿平君,まだまだ油断大敵ですな。彼女,ふたりの不穏な(笑)行動に疑問を持っているようです。はたしてこの三角関係,いかなる展開を見せるのでしょうか?

 で,その駿平,本巻後半では,なかなかの男っぷりを見せます。
 まずは,毎週月曜日の朝,ヒコを丁寧に手入れする駿平。調教師の先生が牧場に来るのはたいてい月曜日。自分の希望で産ませてもらった馬を,なんとかして売り出したいという,駿平の想いが伝わってくるシーンです。それを見て,ちょっと照れたような笑みを浮かべるひびきちゃんの顔もいいですね。
 また久しぶりに牧場に姿を現した,ひびきの双子の弟佑騎。あいかわらず,駿平とはしっくり行きませんが,以前は佑騎に対して,やはり渡会牧場のひとり息子であり,ひびきの弟ということで,どこか腰が引けているようなところがありましたが,今回は,佑騎の 「てめ,このやろ! よそ者のくせにしやがって」というセリフに,「今はあんたの方がよそ者だろーがっ!!」と言い返します。たしかにひびきの言うように「小学生のケンカ」みたいなものかもしれませんが,これまでの駿平にくらべると,成長しているんじゃないでしょうか?(そうそう,彼ももう二十歳なんですよね)。

 そしてその佑騎,函館のレース中に落馬して頭を馬に蹴られてしまいます。意識混濁のまま入院,手術という重傷を負います。病院へ向かう両親とひびき。駿平もまた,いても立ってもいられず,仕事をさぼって彼らのあとを追います。幼い頃から一緒に過ごした佑騎が,「死んじゃうかもしれない,あいつ,もっと遠くへ行っちゃうかも・・・」と涙を流すひびきに,ただただ手を握ることしかできない駿平。
 幸い手術は成功し,佑騎は意識を取り戻します。そこに見舞いに現れた竹岡騎手の娘わかば『Sire Line』に出てきた,お調子者の父や兄と違って,しっかりものの娘さんですな)。どうやら佑騎のガールフレンドらしい(い・・いつのまに!)。そんな彼らの姿を見て,ひびきがぽつり,つぶやきます。
「(佑騎は)この2日間で,死ぬより遠くへ行っちゃったみたいだな。もう戻ってこない」
 う〜む,うまい! じつに絶妙なストーリィ展開ですね。この作者の配慮ある視点,バランスのとれた描き方は,やっぱり凡百のラヴ・コメとはひと味もふた味も違いますね。ストーリィ・テラーとしてのこの作者の力量を,再確認したエピソードでした。

99/01/12

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