ゆうきまさみ『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』16巻 小学館 1998年

 さて本巻の冒頭のエピソードはベエルキップです。渡会牧場にいた頃の名前は“タケル”,この物語のオープニングで,有り金をなくして雪の中に倒れ込んだ駿平を“見つけた”仔馬です。彼にとっては,いわば“命の恩人”といったところでしょうか(笑)。それがはや重賞レースに出走,月日の経つのは早いものです(この連載ももう4年経つんですものねぇ・・・しみじみ)。

 で,メインはやっぱり渡会四姉妹の長女・あぶみさんの縁談話でしょう! 普段はのんびりしっかり娘ですが,酔っぱらうとちょっと(?)乱れてしまう楽しいお姉さんです。2年前,馬主に彼女が招待されたパーティは,じつは体のいいお見合い。ところがべろんべろんに酔っぱらった彼女,相手の顔さえ覚えていません。
 じつはこのエピソード,8巻「STEP80 恐るべき女たち」におさめられたものです。てっきり単発エピソードかと思いきや,2年も経って復活です。この作者のお話づくり,なんとも息が長いですねぇ(笑)。
 お相手はというと,その馬主・猪口さんの次男・繁行さん。「ゆくゆくは親父さんの持つホテルのひとつもまかせてもらえる」らしい,ええとこのボン,この縁談,うまくまとまればあぶみさんは玉の輿です。この話に“静内あぶみファンクラブ”の面々,戦々恐々,なんとかしようと(なぜか)宴会するのですが,馬主のご子息では相手が悪い,と大人の選択
 そんな中,ひとり寂しくため息をつくのが,ケンさんです。これまで,どちらかというと「ワン・オブ・ゼム」といった感じがないわけではなかった彼ですが,ここに来て,一気に注目の的! といっても,こ〜ゆ〜形ではちょっと可哀想ですね(T_T) 彼にはいつか春が来てほしいものです・・・。

 後半の「ドリーム・ラッシュ」は,ストライクイーグルねた。いよいよ天皇賞という大舞台で,宿敵ヤシロハイネスとの対戦です。ハイネスの騎手は名手・弓削,一方,イーグルの騎手は,なにやら一癖も二癖もありそうな天才肌の板東聖司。彼曰く,「勝つか――さもなくばボロ負けでしょう。どっちにせよ面白いレースになりますよ」
 で,実際,天皇賞はイーグルとハイネスとの一騎打ち,写真判定で,ついにイーグルがハイネスを征します。結局,イーグルは「騎手を選ぶ馬」なのかもしれません。自分の力を引き出してくれる(あるいは何もしない(怪我で動けない竹岡一人とか(笑))騎手さえ乗せれば,その底力を発揮するタイプなのでしょう。それは,いつでも勝てるという意味では,一流馬といえないのかもしれませんが,やはり味のある馬といえるかもしれません。
 こういった人間だけでなく,馬のキャラクタまで丁寧に描き出すところが,この作者の,いい意味での「こだわり」と言えるかもしれません。

 ところでたづなちゃん,妙にお茶らける駿平に対して,心の中で「こいつ,軽いだけの男なのかしら・・・」とぼそり。う〜む,恋をしていても,やっぱり彼女はシビアだ(笑)。

98/10/06

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