高橋留美子『犬夜叉』9巻 小学館 1999年

 川べりで一休みする犬夜叉一行。そこへ上流から人間の首が流れてきた。ところがその首には斬られた傷痕がまったくない。これは人間の首なのか? 調べに赴いた彼らが見いだしたのは,人の首がなっている不気味な大樹だった・・・

 というわけで,本巻前半は「桃果人編」です。久しぶりに「不気味系妖怪」の登場です。ここのところ奈落をめぐるエピソードが続いていたので,ときにはこういった独立したエピソードもいいですね。
 で,今回の妖怪桃果人は,いわば「食い気系妖怪」(笑)です。「人間」を箱庭の中で「飼って」,それを食べる,そして桃果人に喰われてしまうと,「人面果」となって大樹の枝になる,それは桃果人が仙人になるための薬だという・・・う〜む,不気味ですねぇ・・・。「人間の首が果実のように樹の枝にぶらさがる」というのは,怪奇系ホラーではときおり見かけるイメージですが,それを仙人の薬に結びつけるあたりが楽しいですね。
 さらに今回は,「朔の日」(新月),半妖である犬夜叉の妖力が消える日ということで,犬夜叉が圧倒的に不利な設定となっています。しかし,このことが,犬夜叉とかごめとの関係をより深めるエンディングへと繋がっていきます。桃果人によってボロボロになった犬夜叉は,かごめを守るために,桃果人とともに谷底へ落ちていきます。
 「ざまあみろ,てめえ・・・死ぬぜ」と毒づく桃果人に対して,「かもな・・・それでも・・・かごめが生きているなら・・・」とつぶやく犬夜叉。犬夜叉にとってかごめの存在はますます大きくなっているようです。
 ところでこのエピソード,犬夜叉にとって,もうひとつ大きな意味を持っています。桃果人はもともと人間だった,仙人になるために妖怪となったことが明らかにされます。強くなるために人の心を失った桃果人,それは妖怪になりたいと願う犬夜叉の心に影を落とします。事件の終了後,弥勒は犬夜叉に言います。
「おまえは,かごめさまを守りたいと思っている。そのためにも力が欲しい。しかし,四魂の玉を使って妖怪になったとき,おまえは・・・かごめさまや七宝を喰い殺すかもしれません。」
と。「おれの心は変わらねえ」と強がる犬夜叉の心によぎる不安。はたして,このエピソードは,犬夜叉にどのような影響を与えるのでしょうか?

 さて後半は,新キャラ登場,「妖怪退治屋・珊瑚編」です。山中の砦に,妖怪退治を生業とする一族が住んでいた,そして,犬夜叉たちが追い求める四魂の玉は,この村で作られたという・・・という新しい展開が見られます。この作品の設定の基幹に関わる新展開だけに,これからが楽しみです。おまけに本巻ラストで,ふたたび奈落が登場。なにやら裏で糸を引いている気配。このエピソードはまだ始まったばかりですから,感想は次巻以降にしたいと思います。
 ところで,新キャラ珊瑚,巨大なブーメランを操って妖怪を倒すのですが,こういった突飛な技(「芸」か?(笑))って,むかしの忍者マンガにでも出てきそうなノリですね。この作者,女性ではありますが,そのスピリッツはやっぱり少年マンガのように思います。

99/02/02

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