高橋留美子『犬夜叉』8巻 小学館 1998年

 さて,これまで猿の皮をかぶって素顔をさらさなかった奈落がいよいよ顔見せです(って,歌舞伎じゃないんだから(笑))。そしてついに奈落の口から,犬夜叉と桔梗をめぐる因縁が語られます。
 手負いの野党・鬼蜘蛛,桔梗にあさましい欲望を抱いた彼のすさまじい邪気に吸い寄せられて集まった妖怪たち。50年前,洞穴の中で鬼蜘蛛の邪心と妖怪とが一体となったとき,奈落は生まれました。それまで桔梗によって封じられていた妖怪が,鬼蜘蛛のもとに集まったのはなぜか? 奈落は語ります。
「桔梗がつまらん半妖に惚れて,ただの無力な女になりさがったせいだ」
と。
 桔梗が犬夜叉を恋したがゆえに解き放たれた妖怪たち,その妖怪たちから生まれた奈落。つまり,奈落という奸智に長けた凶暴な妖怪の誕生は,桔梗と犬夜叉との恋がもとになっていることになります。そしてそれはまた,犬夜叉=桔梗=奈落(鬼蜘蛛)という,危険きわまりない三角関係といえなくもありません。その三角形の中心に四魂の玉が置かれるのでしょう。

 そして本巻後半,物語を構成するもうひとつの三角関係が語られます。それは,犬夜叉=桔梗=かごめという三角関係です。
 6巻で,鬼女・裏陶(うらすえ)の邪術によって蘇った桔梗,彼女は小さな村で巫女として暮らしていた! 村人たちに慕われる反面,夜な夜な死者の魂を集めています。彼女を呟きます。
「犬夜叉,もうすぐ迎えにいく」
と。
 偶然,桔梗の生存(?)を知った犬夜叉は,かごめらを置いて,ひとりで桔梗を探しに旅立ちます。「かごめがそばにいてほしい」という言葉に反する犬夜叉の行動に,かごめの心は揺れます。そして邂逅する桔梗とかごめ。かごめを呪縛した桔梗は,犬夜叉を地獄へ連れ去ろうとしますが,かごめの想いが桔梗のたくらみを打ち砕きます。
 桔梗の妹,いまや老婆となった楓は,訪れてきた桔梗に言います。
「かごめは不思議な子です。それがあの子の力なのか・・・少しずつ犬夜叉の心を癒している」
 それを聞いた桔梗は思います。
「生きていれば,この私が犬夜叉の心を癒すはずだった」
と。

 ここに来て,物語のベーシックな部分が明らかになったように思います。桔梗と犬夜叉,50年前のふたりの因縁と四魂の玉を中心として,すべてを邪悪な方向へと引っ張る奈落というベクトル,犬夜叉への愛憎半ばする想いを抱え込んだ桔梗,彼女は犬夜叉を黄泉の国=自分の国へと誘い込むベクトルです。そして,これらふたつのマイナス方向へのベクトルに対するのが,かごめなのでしょう。いまだ自覚はありませんが,彼女は聖なる方向へと進む力なのだと思います。それは,かつて桔梗が持っていて,失ってしまったベクトル(=犬夜叉の癒し)です。この相異なる方向の力のせめぎ合い,引っ張り合いの中で物語は展開していくのではないでしょうか?

 それにしても北条くんのボケは相変わらずさえてますねぇ(笑)。

98/12/15

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