高橋留美子『犬夜叉』2巻 1997年

 さて,いったんは現代に戻ったかごめ。しかし“四魂の玉”を狙う逆髪の由羅の魔手に追われ,ふたたび戦国時代へ・・・。鋼鉄の如き髪の毛を自由自在に操る由羅の前に,犬夜叉は思うように反撃できない。が,かごめの機転で逆転!

 というわけで「由羅編」(と勝手に呼んでますが)は終了。第1巻の感想でも書きましたが,この由羅は,なかなかのお気に入りです。この巻で出てくる,犬夜叉の兄・殺生丸もそうですが,基本的に妖怪というのは無表情が似合います。妖怪と人間とは,まったく異なる存在として設定されてるようですので,妖怪が人間の感情を理解する,ということはありえないのでしょう。人間の生と死にまつわる悲しみや苦しみ,そしてよろこびなどから,遠く離れたところに妖怪は存在するのでしょう。いや,「遠い」とか「近い」という比喩さえもあてはまらない異質さが,妖怪の身上なのかもしれません。人間が,蝶の持つ生について理解できないままに,蝶の美しさに惹かれコレクションを集めるのと同様,由羅もまた,人間という異質な種の生について理解せぬまま,人間の髑髏を集めるのかもしれません。けっして理解し得ない,あまりに異質な存在としての妖怪と人間・・・。

 だからこそ,今回明らかにされた,犬夜叉の「半妖」としての立場が,物語で重要なファクターになるのではないでしょうか? 妖怪と人間の両方の血を引く犬夜叉。人間の側からも,妖怪の側からも,中途半端な存在。人間からは恐れられ,妖怪からは嘲られる。しかし,古来,神話的世界でも,また歴史的現実の世界でも,そういった境界にいる,マージナルな存在こそが,世界を活性化させ,さらには世界を変革する力を持っていたのではないかと思います。とくに平和で安定した世界でより,混乱し流動する時代と場所にあっては,むしろそういった境界性,中途半端な立場の方が有利に働く場合も多いのでしょう。これからの犬夜叉の冒険は,彼のそういったマージナルな力によって繰り広げられる世界ではないでしょうか?(考えてみると,『らんま1/2』の乱馬も,性別がマージナルな存在ですから,似たような設定ですねえ)

 この巻で,犬夜叉は新たな武器“鉄砕牙”,父親の牙で造られた刀を手に入れます。しかしそれは,父親が人間の母親を守るために造った刀。(人を?)守るためにしか,その真価を発揮できないという設定になっています。妖怪(=父親)の一部で造られた人間を守るための武器というのも,やはりマージナルな存在のような気がしますので,犬夜叉にふさわしい武器なのでしょう。

 ところで,相変わらず,この作者の「小ネタギャグ」はいいですね。かごめが犬夜叉の傷を治そうと押し倒す(?)シーンで,老楓が,子どもたちの顔を覆って「見てはならぬ」(ささっ)と言うあたり,思わず笑ってしまいました。

97/05/24

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