高橋留美子『犬夜叉』12巻 小学館 1999年

 死んだはずの琥珀を餌にして,珊瑚に,「鉄砕牙」を盗ませた奈落。そして彼女を救いに向かった犬夜叉たちも,奈落の“瘴気”に囲まれ絶体絶命。しかしその卑劣な罠をかごめの放った一矢が打ち砕く!

 というわけで,「琥珀傀儡編」では,かごめが大活躍です。彼女は,犬夜叉がかつて恋した巫女桔梗の生まれ変わりという設定ですから,底知れぬ力を秘めている可能性は,これまでも何度か暗示されてきましたが,ここへ来て,その片鱗をかいま見せます。それは「邪悪な力」を浄化する「聖なる力」です。
 しかし,その発現の仕方がおもしろいですね。かごめは言います。
「あいつ(奈落),犬夜叉のことバカにして・・・頭にきちゃったんだもん。」
 恐るべしは「乙女のパワー」であります(笑)。シンプルでストレート・・・それこそが,周到な策を巡らし,卑劣な罠でもって,犬夜叉たちを追いつめる奈落を打ち砕く,もっとも強い「力」となりえるのかもしれません。あるいはまた,「聖なる力」とは,常にこういった「単純さ」の中にこそあるものなのかもしれません

 つづいては独立エピソード「半妖・地念児編」であります。小さな村で立て続けに発見される,腹わたの食い尽くされた死体。村人たちは,はずれに住む半妖・地念児こそが,その犯人と考えるのだが・・・というお話。薬草をもらいに来た犬夜叉とかごめが,その争いに巻き込まれます。本編中,犬夜叉は,人間もなく,妖怪でもない,どっちにも行けず「居場所」がなかったと,かごめに語ります。「弱音」を吐きます。「弱み」を見せること――それは,闘いに明け暮れてきた犬夜叉にとって,きわめて危険なことです。しかし,そんな「弱み」をかごめに語るということは,彼女に対する信頼の現れと言えましょう。
「ああ,そうだ。いつの間にか,当たり前みたいに,かごめがそばにいる―――おれの居場所だ――」
と自覚する,このエピソードのエンディングは,じつにいいですね。
 ところで,地念児が半妖であることを知り,その母親を見た犬夜叉のセリフ「おめえの方が人間なんだな」には,笑っちゃいました。

 さてこの物語では,奈落とともに,ストーリィ展開に重要な影響力をもったキャラクタが,もうひとりいます。それは死の淵から蘇った桔梗であります。本巻ラストは,その奈落と桔梗がついに相まみえる「奈落桔梗遭遇編」です。
 かごめの矢によって,かなりのダメージを受けた奈落は,「蠱毒」という呪法を用いて,復活をはかります。妖怪同士を闘わせ,最後に生き残った最強の妖怪を,自分の躰にしようとします。その妖怪同士の闘いの場に入ってしまった犬夜叉。さらに,その邪気をたどって桔梗がやってきます。負ければ殺され,勝っても相手の躰と融合してしまう・・・はたして犬夜叉は,この危機的状況をいかに脱することができるか? というところで次巻です。
 それにしても,最後に生き残った2匹の妖怪・・・その姿形は,妖怪というより「怪獣」といった方が適当かもしれません。とくに,背中にトゲトゲのある方は,円谷プロの特撮ものにでも出てきそうな感じです(笑)

99/09/28

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