高橋留美子『犬夜叉』11巻 小学館 1999年

 まずは前巻からのつづき「水神編」です。水中戦,空中戦と,なかなか動きのあるエピソードでありますが,最後には本物の水神様が出てきて,一件落着といったところです。クライマックスが別巻になってしまうと,こういまひとつ,迫力に欠けているように思えてしまいますね。やはりこういったスピード感のあるエピソードは,一気に読みたいところです。

 そしておつぎは「弥勒・風穴の傷編」です。いまや,犬夜叉一行になくてはならない存在となった弥勒。彼の右の掌に空いた「風穴」は,妖怪・魑魅魍魎を吸い込んでしまう(文字通り)「凄腕」でありますが,その「風穴」が大きくなると,ついには自分自身をも吸い込んでしまうという諸刃の刃です。そんな弥勒,例によってスケベ心を起こしてナンパした女は,じつは蟷螂の化け物。風穴で吸い込んだはいいが,そのとき風穴に傷が付き,広がってしまいます。そこで,彼の育ての親夢心和尚治療してもらおうと,彼を訪れますが,そこには奈落の影が・・・というお話です。
 普段は明るい弥勒ではありますが,やはりそこは人の子,苛酷な運命を背負ったものとしての苦悩と焦慮があります。このエピソードは,そんな彼のもうひとつの「顔」を描き出しているといっていいでしょう(ただ,その「明るさ」は,夢心和尚との掛け合いから考えるに,どうやら和尚の影響が強いようです(笑))。
 もうひとつ,このお話で注目しておきたいのが,犬夜叉が持つ親の形見の刀鉄砕牙であります。一振りで百の妖怪をなぎ倒すことができるという刀ではありますが,いまだ犬夜叉は使いこなすことができません。ところが,弥勒に襲いかかる妖怪たちに向けて一閃,その真価を発揮します。はからずも鉄砕牙を使いこなした犬夜叉。奈落は「犬夜叉が力をつけてきている」と呟きます。はたして鉄砕牙がその力を発揮するとき,奈落を倒すことができるのでしょうか?

 そしてその奈落,新たな刺客を放ちます。その名は琥珀。妖怪退治屋珊瑚の実の弟。「百匹の妖怪をさしむけるより,殺せぬ一匹を放つが得策」というわけで,「琥珀傀儡編」です。
 奈落は,以前,珊瑚を操っていたときと同様,すでに死んでいる琥珀に「四魂の玉」を埋め込み,犬夜叉たちを襲わせます。そして,姉である珊瑚に「琥珀を死なせたくなくば,鉄砕牙を奪ってこい」と取引を持ちかけます。ここらへん,人の心の弱点につけ込み,操作しようとするところ,じつに憎々しいキャラクタですね(笑)。
 ところで,この奈落,典型的な「策士型悪役」でありまして,じつのところ,その力のほどはいまだ明らかではありません。手を変え品を変え,犬夜叉たちを襲撃しますが,けして自分の手は汚さないというポリシィ(?)を持っているようです。ですから,いざ決戦! となったら,けっこうあっさり負けてしまったりして(笑)。
 ま,それはともかく,琥珀の命を救うため,鉄砕牙を奪った珊瑚は,奈落のもとへ赴きます。いったい彼女の真意は?・・・というところで次巻です。

 ところで,166頁と171頁,背後に妖怪軍団を従えた琥珀を描いたコマですが,よく似たアングル・シーンでありながら,どうやらコピーではない様子。それぞれにきちんと描いているようです。そういえばこの作者の作品でコピーの切り張りは,めったに,というかもしかすると,まったく見たことがないですね。このコピー全盛時になんとも職人肌です。さすが劇画村塾出身者!(<意味不明(^^ゞ)。

99/07/31

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