高橋留美子『犬夜叉』10巻 小学館 1999年

 さて前巻から始まった「珊瑚編」のつづきです。奈落によって操られた珊瑚犬夜叉たちに襲いかかります。しかし,その戦いの最中,奈落は四魂の玉を奪って逃走。追いかけた犬夜叉はついに奈落の首を断ち切るのですが・・・という展開。
 このエピソードのクライマックスはなんといっても,この物語の核心「四魂の玉」の由来が明らかにされることでしょう。玉を生み出したのは翠子。生きとし生けるものすべてが持つという「四魂」―荒魂・和魂・奇魂・幸魂―を浄化し,妖怪を無力化する能力を備えた巫女です。彼女の最後の戦いのとき,自分の魂と妖怪の魂を溶け合わせて形作ったものが四魂の玉です。
「妖怪や悪人が持てば汚れが増し・・・清らかな魂を持つ者が手にすれば浄化されると・・・」
と,珊瑚は語ります。そして,汚れた玉が桔梗によって浄化され,そのために邪悪な奈落が生まれた・・・
「玉が繰り返させているんだ」
と彼女は顔をしかめます。
 ここにいたって,この物語における「四魂の玉」の位置づけは大きく変わります。これまでは,四魂の玉は「宝物」であり,力を増幅させる「万能薬」のようなものでした。玉をめぐる犬夜叉と奈落の攻防は,その争奪戦だったわけです。
 しかし,玉の由来が,秘密が明らかにされるに及んで,玉は,「災いの素」といった性格を帯びてきます。人を,妖怪を操り,悲劇を引き起こすものとしての「四魂の玉」。浄化される結果として,邪悪なものを生み出してしまうという因果な存在。人の心を玩び,操っているのは,奈落ではなく,じつは「四魂の玉」ではないのか?
 四魂の玉のために桔梗を失い,奈落に狙われる犬夜叉は言います。
「玉の因果でひでえことが繰り返されているんなら,そんなもん,おれがこの手で断ち切ってやる」
 物語は新たな局面を迎えたようです。

 てなわけで,メイン・ストーリィが一段落したところで,本巻後半はワン・エピソード風のお話「水神編」です。水神へ生贄を差し出す場面に行き会わせた一行,妙な子どもから水神退治を依頼され・・・という内容です。
 久方ぶりの「不気味系妖怪」の登場で,個人的にはうれしいです。でもなんだか,妖怪というより,大昔のスペース・オペラに出てきた悪役宇宙人みたいな顔をしてますね(笑)。小屋に逃げ込んだかごめたちに襲いかかるシーン,お約束的展開とはいえ,なかなかぞくりとさせるものがあります。
 さて,妖怪とはいえ,本物の神器を持つ相手である上に,慣れない水中での戦いとあって苦戦する犬夜叉,果たして勝機はあるのか? というところで次巻です。

 ところで,この巻前半では比較的二枚目役だった弥勒,珊瑚の怪我が治ると,しっかり膝をなで回すあたり,犬夜叉のセリフではありませんが,やっぱり「スケベ坊主」ですね(笑)。

98/05/29

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