ささやななえ『生霊(いきすだま)』 角川書店
 浅茅優子は「根暗でおとなしくて,なに考えているのかわからない人」という,クラスの中では浮いた存在。そんな彼女がひそかに思いを寄せるのは,ちょっと不良っぽい同級生・吉野良二。しかし彼には公認の彼女・倉本真理子がいる。良二が優子をちょっとかばったのをきっかけに,優子は良二に急速に接近する。そして真理子がある夜「事故死」してしまう。ますます露骨になる優子のアプローチ。良二はその優子の思いこみの強さ,強引さ,そして挑発に,いいかげん嫌気がさす。そんな良二にますますつきまとう優子。そんなとき,別の少女・白井明美が良二にラブレターを送る。だが彼女もまた「交通事故」で死んでしまう。
 倉本真理子と白井明美の死に浅茅優子が関係していると考えた良二は,優子の家を訪ねる。そこで待っていたのは,自分を良二の恋人と思いこんでいる優子だった。拒絶する良二,激昂する優子。良二は思わず彼女の首を絞めてしまう。動かなくなった彼女を前にして,呆然としている良二がふと顔を上げると・・・

 最初に読んだとき,怖かったです。むちゃくちゃ怖かった。あんまり怖いんで,しばらく読み返せませんでした。この紹介文を書くためにもう一度読み返しましたが,やっぱり怖かったです。いわば「オカルト版ストーカー」の物語です。

 浅茅優子の思いを「異常」とか「狂気」と呼んで,「向こう側」に追いやってしまうのはたやすいでしょう。しかし,「一途」「粘り強い」「マイペース」と呼ばれる心や体の状態が,「思い込みが激しい」「偏執的」「わがまま」と呼ばれるものと,どれだけの違いがあるのでしょうか。男は「けなげで一途な女」は好きだが,「思い込みが激しくてしつこい女」は嫌いだといいます。でも,ほんとうに両者はきれいに分けることができるのでしょうか。ふたつの間には,どちらともいえないグレイゾーンが横たわっているのではないでしょうか。あるいは,じつはふたつの呼び名はひとつの同じものを読んだものに過ぎないのではないでしょうか。

 最近,「ささやななえこ」と名前を変えて,角川ホラー文庫から同一タイトルの傑作集がでています。


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