今市子『百鬼夜行抄』6巻 ソノラマ文庫 2004年

 7編のエピソードを収録しています。

「花貝の使者」
 花見に来た母の友人は,前の年,娘を海で失っていた…
 このシリーズにおける人間と異形とは,けっして理解し合えない存在として設定されていますが,にもかかわらず,「一瞬の交歓」もまた可能である点が,一筋縄でいかないところでしょう。「母娘の奇跡」で幕を引きそうなところを,もうひとひねりしているのが,この作者の持ち味とも言えます。
「隣人を見るなかれ」
 律には,17年前に失踪した開(かい)という伯父がいた…
 「異人の来訪」という民俗学的モチーフを基礎にしながら,サスペンス豊かな作品となっています,と思いきや,ラストで意外なツイストを喰らわされ,唖然とさせられました。ミステリでいえば叙述トリックといったところでしょう。
「雨降って地に流るる」
 律と司…ふたりきりで過ごす夜に奇妙な出来事が…
 どうもこのシリーズでは,「恋愛」は,異形同士あるいは異形と人間のカップルに「お任せ」のようです(笑) 晩ご飯を心配するに,「若い女がこの状況で心配なのは飯だけか?」が突っ込んでいるところには笑っちゃいました。
「枯れ野」
 奇妙な枯れ野を彷徨う男女…彼らの正体は?
 久しぶりに鬼灯(きちょう)が,ちょっかいを出してきます。青嵐が言うように,こいつの「シャレは生死にかかわる」ので,司と律が,またえらい目に遭います(笑) しかし,その「シャレ」をメインに描きながら,ラストで思わぬ「真相」が明らかにされるところは,やはりこの作者,人が悪い^^;;
「闇は彼方に佇み」
 異界から戻った律の伯父・開は,みずからの過去を清算しようと…
 このエピソードで,藤田和日郎『うしおととら』「とら街へゆく」を思い出した方もおられるかと思います。いわゆる「封印破りパターン」でありますが,そこから姉弟のナイーヴな思い出につなげていくところは,いかにも少女マンガらしいところですね。それにしても,律も,成長するとみたいな,ちょっとシニカルな感じになるのでしょうかね?(ただ「律」と「開」という名前の対称性が気になるところです)
「マヨヒガ」
 律の家から“何か”を持ち去った同級生は,過去にも似たような経験が…
 「異形のモノとの契約」は,民俗事例にもあるとともに,このシリーズでもしばしば取り上げられますね。しかし往々にして「無自覚な契約」は,主人公に災厄をもたらします。だからこそ,その「契約」を知った異能の人(律の祖父のような)が必要とされるのでしょう。
「骨の果実」
 ボケのはじまった父親に送られてくる「土」の正体は…
 「土」の秘密をめぐるミステリと,その「土」がもたらす怪異がマッチングしたホラー・サスペンスの佳品に仕上がっています。ガーデニングというほのぼのとした光景の中から生まれてくる「モノ」のグロテスクさがいいですね。本集中,一番楽しめました。

04/05/09

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