今市子『百鬼夜行抄』4巻 ソノラマコミック文庫 2001年

 「世の中には役に立たない物の方はるかに多い・・・しかもそっちの方が美しく見えるのだから別にいいじゃないか」(本書「行李の中」より)

 やたらと妖怪やら物の怪に“好かれる”体質の飯嶋律を主人公とした連作短編集の第4巻。8編を収録しています。

「行李の中」
 足を怪我した尾崎老人を預かることになった飯嶋家では…
 尾崎老人とは何者なのか? 彼の秘密とは? という謎がメインとなったミステリアスなエピソードです(「尾崎」の謎解きは,なかなか意外で楽しめました)。「狐憑き」という民間伝承と「異類婚姻譚」という,これまた有名なモチーフを上手に組み合わせ,せつなくも哀しいラヴ・ストーリィに仕上げています。
「人形供養」
 大学の知り合いに強引に彼女の自宅に連れてこられた晶が見たものは…
 このエピソードの核心となっている「遺体のない葬式に人形を代わりにする」という習俗,本当にあるのでしょうか? 「人形(にんぎょう=ひとがた)」の基本的性格を考えると,あってもおかしない感じですが,個人的にはそこらへんに興味を引かれます。「人間と人形の入れ替わり」という古典的なモチーフを,「閉ざされた空間からの脱出」というサスペンスフルな展開で描いているところは巧いですね。
「鬼の居処」
 両親を失った飯嶋伶は,叔父の元に引き取られるが…
 この物語のスタート地点である,の祖父と青嵐との出会いを描いています。孫の目から見ると,とんでもない奇行づくしのようなおじいちゃんですが,律と同様,「魔を呼び寄せる体質」から辛い目にも遭っているんですね。本編で描かれる妖怪は,どこかキリスト教世界での「悪魔との取引」を彷彿とさせるものがあります。
「神の通る道」
 大学受験のため,律を車で送っていくことになった晶。ところが道に迷い…
 諸星大二郎を連想させる伝奇テイストの作品です。キリスト教やイスラム教の「神」の荘重さと違って,日本の「神」には「軽やかさ」が感じられます。それは,自然のあらゆる現象の中に「神」を見出し,なおかつそんな自然が四季の移ろいを持っている日本の風土と関係があるのかもしれません。
「待つ人々」
 合格発表を見に行こうとした律と司は,乗ったバスの故障のため,停留所の待合室で足止めをくらい…
 まったく見知らぬ人々が,どこかへ行くために集う場所……「待合室」というのは,なにか不思議な空間です。ですから,ときに「人ならざるもの」もまた近寄ってくるのかもしれません。次第次第に「待つ人々」の正体が明らかにされるとともに,隣にいる律は,本当に律なのか? という司の疑心暗鬼が,緊張感をぐいぐいと高めています。本集中,一番楽しめました。それにして,お地蔵さんに守ってもらえるということは,律も司も,まだまだ子どもなんですね(笑)
「雨がまた呼ぶ」
 大学に合格した律は,構内にある「三五郎池」にまつわる伝説を聞き…
 今市子版「猿の手」といったところでしょうか。不幸な事故で死んだ息子の絵を描き続ける母親の心持ちが,不気味でもあり哀しくもあります。怪異を描きながら,そこに上手にミステリ・テイストを織り交ぜているところが楽しめました。
「闇夜行路」
 コンパの帰り,律が友人のバッグを拾ったことから…
 一種の「時間怪談」((c)井上雅彦)であると同時に,叙述ミステリにも通じる,なかなか凝った構成の作品です。さりげないですが,「おばあちゃん」の扱い方が巧いですね。
「不老の壺」
 所有者に富をもたらすという壺。その中に閉じこめられていたものの正体とは…
 律たちをさんざん振り回す妖怪赤間こと「茶髪のにーちゃん」と伶じいちゃんとの関係が明らかになるエピソードです。なるほど「鬼灯」ですか・・・いいですね。「幸運を呼ぶ壺が実は・・・」といった素材は,ホラー作品ではしばしば見かけますが,それを「他人から奪わないと手に入らない」という設定を施すことで,より不気味な雰囲気が高まっていますね。

01/10/13

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