樹村みのり『ふたりが出会えば』秋田書店 1984年

 9編をおさめた短編集です。が,どうもいまひとつよくわからない組み合わせです。
 「わたしの宇宙人」「結婚したい女」「ふたりが出会えば」「直美さんが行く」「前略同居人サマ」「クリーム・ソーダ物語」は,『ビッグコミック・オリジナル』(小学館)や『ヤング・ジャンプ』(集英社)などの青年コミック誌に掲載された作品です。で,前4編は,一番古いものと一番新しいものとの発表時期が2年間も空いてはいるものの,登場するキャラクタが共通する,いわば連作短編です。でもって「わたしの宇宙人」だけが『カッコーの娘たち』(講談社)に収録されてたんですよね。
 残り3編は「菜の花畑のむこうとこちら」「菜の花畑は夜もすがら」「菜の花畑は満員御礼」という,言わずと知れた,この作者の代表作「菜の花畑シリーズ」なのですが,なぜかその後半だけ。掲載誌は『少女コミック』で,たしか小学館からコミックが出てました(『ポケットの中の季節』だったでしょうか・・・。おそらく現在入手の可能性は絶望的でしょうねぇ)。
 とまあ,こんな風に掲載誌も内容もかなりばらつきのある短編を1冊にまとめて出したのが秋田書店です。
 う〜む,どういう経緯でまとめられたんだろう・・・。でも初見の作品や,雑誌掲載時に読んだだけの作品も入っていますし,なによりいまではめったに見かけることのない作品までおさめられていますので,ファンとしてうれしい1冊です。

 さて「わたしの宇宙人」をはじめとする4編の連作短編はいずれも「結婚」がテーマとなっていますが,それぞれシチュエーションが違っています。「宇宙人」は,酔っぱらって一夜をともにした男女の結婚をコミカルに描いています(「フィフティフィフティですね」という言葉が印象的です)。「結婚したい女」は突如職場の同僚からプロポーズされた男の話。「ふたりが出会えば」はお見合いの話。「直美さんが行く」は幼なじみ同士,などなどです。いずれの作品も「結婚」を女性の目で描いていますが,そこには結婚に対する変な思い入れ(プラスにしろマイナスにしろ)はほとんど見られず,どこかさっぱりした雰囲気があります。しかしだからといってドライというわけでもなく,対等な「パートナー」に対する誠実さのようなものが感じられます。個人的には表題作「ふたりが出会えば」が一番好きですね。
 このことは,このシリーズ外の短編,自分の知らないことを素直に女性に尋ねることのできる男性に惹かれる主人公を描いた「クリーム・ソーダ物語」にも通じるものがあるようです。

 後半は「菜の花畑シリーズ」,まあちゃんの家に下宿するモトコさん・ネコちゃん・スガちゃん・モリちゃん4人の女子大生を中心とした連作コメディです。ほのぼのタッチの作品ですが,本書所収の3編では,新たに近くに下宿する男子学生4人組が登場,彼らとの恋愛が絡んできて,前半までの「ほのぼの」とはちょっとニュアンスが違うようなところがあります。もっともドロドロしたところはなく,「シェーシュンだなぁ!」といった感じです。
 この3作品はいずれも既読なのですが,ほとんど記憶に残っていなかったシーンが,今回改めて読んで,すごく印象的に感じたのに驚きました。そのシーンというのは,「満員御礼」のなかの岩子さんのエピソード。岩子さんは,男子学生4人が下宿する水谷家のお手伝いさん。4人娘の大家さん冬子さんの女子高時代からの友人です。水谷家を訪れた謎のおじさん(サンタクロース?)が,日本が終戦を迎えた8月15日の岩子さんの様子を語ります。
「玉音放送を聞いたおとなたちがしょげかえっていた夏の日。突然岩子さんはおし入れの奥に大事に大事にとっておいたワンピースを着て町を歩きたくなり,そして実際そうしたんだ。ただ彼女はずんずんずんずん街の通りという通りを歩いた。」
 そんなセリフとともに,空から暑い太陽の光が降りそそぐ,戦争で廃墟と化した街の通りを,夏服を着た岩子さんが歩いていく後ろ姿が,ほぼ1ページ大で描かれています。
 マンガだけではなく,古い,以前読んだ作品を読み返すというのは,ただ単になつかしいというだけでなく,こういった新しい印象,発見があるのも,楽しみのひとつですね。

 それにしてもこの作家さん,いまなにをされておられるのでしょう。もし近況などをご存じの方がおられましたら,ぜひご一報ください。

98/07/13

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