水田恐竜『放課後キッチン』8巻 ぶんか社 2002年
書店で「あ,最新刊」ということで,手に取ろうとすると,背表紙に,お腹の膨らんだちかこの絵。「え? もしかして?」と思いつつも,「ネタかな?」とも疑いながら,表紙の帯を見ると「女子高生幼妻4コマついに笑顔と感動の最終巻!」という惹句。巻末の「あとがきキッチン」を読むと,連載開始からすでに10年。第1巻からずっと読み続けている作品だけに,そんなになるのか,という感慨がありますね。
また,ちかこの妊娠・出産で,シリーズの幕が閉じるというエンディングは,ある程度,予想がついていたところでもあります。ただ,妊婦ネタは,この作者にはあまり似合わないし(笑),ネタの使い方も難しいでしょうから,どうするのだろうか,とも思っていました。その点は,最後の2回であっさりと流しているので,うまく処理したという印象を受けます(まあ,もっとも,編集部から最終回を予告され,それからまとめた,という感じもしますが(笑))。でも最後のちかこの「暑中見舞い」は,彼女のキャラを的確に切り取っていて,さすがにうまいですね。
でもその一方,今回が最終巻ということが頭にあるせいでしょうか,エピソードの作り方が,どこか「終末期パターン」を匂わせているようにも思えますね(ああ,いやだね,マニアは(笑))。
そのひとつは,新キャラ春香の登場。彼女は,ちかこの中学校時代の友人が転校してきてレギュラ陣に加わります。この作品の登場キャラは,わりと安定していて,出入りはほとんどなかったので,この展開は,ネタに詰まってきた作品にしばしば見られるパターンという感じがしましたね(そのパターンを一番強く感じられるのが,たがみよしひさの『軽井沢シンドローム』じゃないかと(笑<たがみファン,ご容赦!)。
で,この春香というキャラ,ちょっと「抜けている」けれど,スポーツが得意で,なにより身体がむちゃくちゃガンジョウ(笑) この「ガンジョウネタ」というのは,別の作品で,キャラを宇宙人とかロボットとかに設定して,とんでもないシチュエーションをギャグに使うというこの作者のお得意のパターンですね。
もうひとつ感じた「終末期パターン」は,幸夫とちかこの「過去」がネタにされている点です。これも(おそらく)まったくなかったことで,登場キャラの「今」に関するネタが尽きたために,過去ネタを持ってくるというのも,やはりよく見られますね。でもふたりの出会いは,ちかこが中学生の頃。そこから結婚までの流れを描くには,この作品の「ノリ」からして,ちょっとやばかったのかもしれません(下手すれば犯罪ですからね(^^ゞ),あまり膨らませることもできなかったのではないかと想像してしまいました。
それと本巻でビックリしたのが,みずほと小千谷先生が別れちゃったことですね。まぁ,けっして「ほのぼの4コマ」というわけではないですし,みずほのドライさと小千谷先生のウェットさはフィットしませんので,こういう展開もアリかな,と思いつつ,サンディ&武のカップルが(よくわからない「危機」(笑)を迎えつつも)長続きしているのとは,対照的ですね。武の顔と,作者自身の自画像がよく似ていることから,もしかしてこの作者の願望が入っているのかななどと邪推してしまいます(笑)
最終巻なのに,なんだか「文句」みたいな文章になっちゃいましたが,けっして不満があるわけではありません。むしろ,安定したタッチと,一定のレベルをキープした4コマ・ギャグを,10年間も続けてきた作者には,敬意を表しています。十分に楽しめる作品でした。また帯を見たら,未入手の水田作品もいくつかあり,まだまだこの作者の「変なギャグ」を味わえるようで,楽しみです。
02/10/17