冬目景『羊のうた』1巻 スコラ 1997年

 子供の頃,父親と姉と生き別れになり,父親の友人夫婦に育てられた高校生・高城一砂。十数年ぶりに現れた姉は,彼にこう告げる「高城家は吸血鬼の家系なのよ」と。その一言が,平凡な高校生である彼の生活を変える。そして彼は,自分の中に「黒い物」の存在に気づきはじめ・・・

 メールをくださったきりえさんからご紹介していただいた作品です。
 う〜む,モロ趣味ですねぇ^o^
 こういった,線にメリハリがあって,硬質なタッチの絵は好きです。それと表情の描き方が,生き生きとしていて巧いですね。とくに主人公の姉・千砂の,冷酷そうに浮かべる笑み,一砂が「発症」していることを知ったときの驚き,高校のクラスの中で(みずからの意志で)孤立し,「くだらないことに,あたしを巻き込まないで」とクラスメートを睨む表情・・・いずれもキャラクタの心理を的確に切り取っています。

 ストーリィもわたし好みのミステリアスな展開です。突如,主人公の前に現れた姉と,彼女から告げられたショッキングな言葉。さらにその言葉が真実であること思わせる主人公の変調。悩み,焦る一砂,いったい彼はどうなるのか? 千砂が一砂に与えた「薬」―「血」への渇望が限界に来たら飲みなさいと千砂が与えた「薬」はなんなのか? それを彼女に与えた水無瀬という男の正体は? 本巻のラスト,「血」への衝動が押さえきれない一砂の前に,血を流した自分の腕を差し出す千砂(その哀しみに満ちた表情の秀逸さ!)。彼もまた「吸血鬼」として道を歩まねばならないのか? まだまだ物語はその全貌を見せることなく,謎を孕んだまま進んでいきます。

 さらにこういったメインとなるストーリィにふくらみを与えているのが,高校生としての一砂や千砂をめぐるエピソードの挿入です。
 一砂が好意を寄せる八重樫葉という少女。一砂は彼女の描く絵のモデルとなりますが,自分が「吸血鬼」となって彼女を襲う夢を見て以来,彼女に近づくことに恐怖を覚えます。そしてわざと嫌われるような言動をとる一砂。
 また自分の運命を呪い,その運命から逃れている弟を憎む千砂,しかし弟もまた同じ運命を担っていることを知ってから心揺れる彼女。さらにそこには父親に対するアンビヴァレンツな感情が絡んできます。
「普通の生活も送れない。未来に希望も持てない。それでも生きているなんて滑稽よ」
 そうつぶやきながらも,笑いさざめく高校生の姿に,哀しげな,あきらめたような視線を送る彼女。
 ハードな展開を予想させるストーリィに,こういったエピソードを加えることで,先述したような絵のタッチとあわせて,ナイーヴな雰囲気をも与えているように思います。
 それに変に先を急ぐことなく,丁寧に場面場面をえがいているところも好感が持てます(なぜか『寄生獣』岩明均に近いテイストを感じました)。

 さてさっそく2巻を買いに行きましょう! きりえさん,ありがとうございました(_○_)

98/01/26

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