佐々木倫子『Heaven?』2巻 小学館 2001年

 呪われた(笑)フレンチ・レストラン“ロワン ディシー”を舞台にしたシリーズの第2集です。

 さて本作品,一癖もふた癖もあるスタッフと,これまた三癖四癖ある(なんて言うのか?)お客との軽妙なやりとりが魅力の作品ですが,この巻では,スタッフの“正体”(笑)が少しずつ明らかにされていきます。
 まずは主人公(?)の伊賀観。なぜ彼がフランス料理の世界に足を踏み入れたかが,赤裸々に(笑)描かれています。この作者,この手のタイプのキャラクタ,好きですね。気が弱くて,身近に強烈でわがままなキャラクタがいるために,ひたすら振り回されるタイプ・・・『動物のお医者さん』ハムテルなんかもそうですし(振り回す側のわがままキャラはおばあさん漆原教授ですね),たしかこの作者の初期作品にも,姉貴たちにいいように使われる弟,なんてのもありませんでしたっけ?
 で,この手のタイプは,たとえひとりのわがままキャラから逃れることができても,別のわがままキャラに出会う運命にあるのでしょうか。「ロワン ディシー」黒須仮名子オーナー,彼女の正体が明かされるのが「せまい部屋の殺人」です。胡乱な感じのふたり組から,なにかを催促されるオーナー,周りは彼女が莫大な借金を抱えているのではないだろうかと不安が高まり・・・というお話。この作家さんの作品で,あんまり陰惨な話はないだろうと思いつつも,なかなかサスペンスフル(笑)な展開のエピソードです。「金子ローン」の「謎解き」はいいですね。
 そして,本作の2大強烈キャラ,伊賀ママ黒須オーナーが激突(?)するのが「利己的遺伝子ふたたび」です。生活が不便なので観を自宅に呼び戻そうと,伊賀ママが「ロワン ディシー」に来襲します。で,言うまでもなく便利な観を手放したくないために,オーナーと対立。基本的にどちらも,他人(=観)のことを考えない身勝手な性格なの譲るはずもなく・・・というお話。オーナーの「しょうがない! ギリギリの譲歩よ! 店の暇な曜日! 週に二日だけ長崎に返します!!」というセリフに,「死にます・・・」と心の中でつぶやく観に爆笑してしまいました。それにしても伊賀パパの姿に,観の哀しい未来が見えてしまいますね。
 一方,伊賀ママやオーナーとはぜんぜんタイプが違い,一見,人が良さそうだけど,周りの迷惑を気にしないジコチュウのサービスマン川合くんを描いたのが「川合くん 幸せかい?」です。いるんですよねぇ,こういうタイプ(苦笑) 遊ぶ相手としてはいいんだけど,絶対いっしょに仕事したくないタイプ・・・伊賀ママやオーナーよりもはるかにリアルな感じがします(<実体験があるらしい^^;;)

 さてレストランが舞台である以上,やってくるお客さんとのやりとりも,この作品のひとつのモチーフです。「『楽しい夜をありがとう』」は,「ロワン ディシー」に,テングになってる若手芸能人と,「幻の女優」久世光代が来たことから起こるドタバタを描いています。こういった若いタレントさんのわがままぶりは,しばしば雑誌などでまことしやかに書かれていますが,どれくらいあるんでしょうね? 田舎者にはわかりません(笑)
 「あらかじめ失われた接待」は,無謀にも(笑)「ロワン ディシー」で,お得意相手の接待を試みる若い会社員の苦悩(?)がテーマです。元銀行員山形さん「この店を選んだ時点で(接待は)失敗が決まったんだよ」のセリフには重みがありますね。たしかにフランス料理じゃ,肩が凝って,なかなか親密なコミュニケーションというのは難しいでしょうね。でも蟹料理も接待に向かないとよく聞きますね。みんな必死になって蟹殻を剥こうとするので,会話がぜんぜんはずまないから・・・
 わがままなお客もイヤですが,お店に対して気を遣いすぎるお客も,店にとっては扱いづらいです。そんなお客が登場するのが「気をつかう客」です(タイトルそのまんまですね(^^ゞ)。本来,気を遣う側(=お店)が気を遣われるほど居心地の悪いものはないでしょうね。
 ところでオーナーが作った料理をスタッフが食べたところ,腹痛が・・・という「自家中毒」。レストランを舞台にした作品としては,かなり「危ない」ネタですね。保健所あたりからクレームがつかなかったのかな?

01/08/01

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