星野之宣『はるかなる朝』集英社 1988年

 この作者の初期作品をおさめた作品集です。
 コミックス版で持っているのですが,未読の作品2編が収録されていたので買ってしまいました。商売がせこいような気もしますが,手に入りにくい初期作品の復刻という点ではうれしいですね。

「はるかなる朝」
 1908年シベリア・ツングースで起きた謎の大爆発。SF作家の奥谷らは,そこで宇宙船を発見する…
 ツングース隕石は,SF作家に多くのインスピレーションを与えているようで,本作品もそのひとつ。そこにアトランティスを絡めたあたりが,この作者のオリジナリティなのでしょう(SFに詳しくないので間違っていたらご指摘ください)。「おまえだけは最後までめざめさせたくなかったっ」というセリフは,SFマンガの名セリフのひとつでしょう。
「葬送船団」
 環境汚染のため地球に住めなくなった人々は,火星に新天地を求めて移民を開始するが…
 SFミステリといった作品です。船長の事故で失った右腕が伏線になっていて楽しめます。ただ,ページ数の関係もあるのでしょうが,「冬眠から目覚めた子どもたち」という設定をもう少し生かしてほしかったですね。
「鋼鉄のクイーン」
 コンピュータ・エバにすべてのコントロールをまかせた宇宙船。退屈した乗組員はエバと賭をすることになり…
 機械(コンピュータ)と人間の関係というのもこの作者が多く取り上げるモチーフですね。ラストがショッキングです。
「荒野への脱出」
 結婚を間近にひかえた男女が交通事故! 女の方はサイボーグ手術で一命をとりとめたと思われたが…
 この作品もミステリ色の強い作品です。機械にコントロールされ,快適な“都市”で生きる人間にとっても,愛する相手が機械かどうかは,また別の問題なのでしょう。
「水のアマゾネス」
 アマゾン川上流にあるという謎の遺跡を探し求める探検隊は,なにものかの襲撃を受け…
 未読作品のうちのひとつです。SFというより伝奇に近い内容です。のちの『ヤマタイカ』『妖女伝説』につながる作品なのでしょう。淡水産の人魚という奇想ともいえる発想がおもしろいです。その前に出てくる淡水産の鮫というのが伏線になっているんですね。
「カルネアデス計画」
 本来接するはずのないパラレル・ワールドのふたつの地球が接触! 片方の地球では恐るべき決断が下されていた…
 パラレル・ワールドというSF的設定と,海難事故という現実的設定をうまく絡み合わせた作品で,星野作品の中で好きなもののひとつです。ちなみにわたしはこの作品で初めて「緊急避難」「カルネアデスの板」という言葉を知りました。勉強になるなぁ(笑)。
「ホワイト・アウト」
 「世界最悪の旅」と呼ばれた南極探検のスコット隊。彼らは極点からの帰途,不可思議な現象に遭遇し…
 この作品も未読でした。南極大陸というと,わたしはどうしてもH・P・ラヴクラフトの「狂気の山脈にて」を思い出してしまうのですが,南極というのも,やはり作家の想像力をかきたてる存在なのでしょう。また極点が地球の磁場の中心であるということも(この理解は正しいのか?),なにやら不思議なことがあってもおかしくないな,という発想を促すのかもしれません。
「遠い呼び声」
 ジョディは幼い頃から不思議な光を見,声を聞いていた。成長した彼女は,宇宙基地でとてもなつかしい声を聞き…
 科学的裏付けがどうのこうのではなく,ひたすらせつない作品です。『2001夜物語』「愛に時間を」などと同様,こういった思い切ったSF的設定でのラヴストーリィというのも,あまり目立ちませんが,この作者の持ち味のひとつなのではないかと思います。

98/04/04

go back to "Comic's Room"