山岸凉子『白眼子』潮出版社 2000年

 2編を収録しています。

「白眼子」
 昭和21年,北海道小樽。闇市で迷子になってしまい,凍死しそうになった光子は,ひとりの男に助けられる。それが,彼女と“白眼子”との出会いだった。盲目の彼は,通常の人には見えないものが見える異能の持ち主だった…
 本編の異能者「白眼子」というキャラクタは,おそらくモデルがいるのでしょうね。もしかすると語り手である光子(道子)も,実在の人物なのかもしれません。
 物語は,その光子の目を通して,描かれていきますが,この光子の「視点」こそが,この作品をステレオ・タイプの「異能者の数奇な生涯」という物語とは,異なる感触を持たせる効果を生みだしているように思います。
 光子は,子どもの頃から白眼子の元で育っていますので,彼を敬愛していますが,いわゆる「信者」ではありません。もちろん,まったくの「第三者」でもありません。ですから,彼女の目を通して描かれる白眼子は,たしかに「異能者」ではありますが,それ以上に,世界に対してやさしさとあきらめとが綯い交ぜになった「まなざし」をもつ人物として浮かび上がってきます。そして作者は,光子というやや離れた視点を設けることで,むしろ白眼子の異能よりも,その「まなざし」を描くことに焦点を当てているのではないでしょうか。そして,白眼子が,彼を訪れる人々に与える「癒し」とは,彼がもつ異能そのものによるのではなく,その背後にある,その「まなざし」によるものとして描いているようにも思えます。
 それにしても,死んだおばあちゃんが,二階の窓から顔を出すシーンは,むちゃくちゃ怖いですね。

「雨の訪問者」
 糸井久仁子,40歳,市役所勤め,独身。充足したひとり暮らしを続ける彼女の前に,不可思議な少女が出現し…
 「あ,これ,読んだことがあるなぁ」と思って書誌情報を見ると,1979年『セヴンティーン』初出とのこと。う〜む…別のコミックに収録されているのでしょうか? それとも掲載誌(妹が『セヴンティーン』を買ってました)で読んだでしょうか? いずれにしろずいぶん昔の話です。で,そのときは,正直,ピンと来なかったのをおぼえています。身辺状況は,当時とたいして変わっていませんが,今回読み返してみて,作中の主人公のセリフ,
「でも,そのグッタリをしてでも,彼と結婚したくなったんでしょ」
に,妙に納得してしまいました。要するに,そこらへんのバランスなんでしょうねぇ。

01/01/04

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