須藤真澄『ごきんじょ冒険隊』竹書房 1997年

 この作者の作品は,4コママンガ誌などでときおり見かけていましたが,まとめて読むのは今回がはじめてです。
 この作家さんには熱狂的なファンがけっこうおられるという話を聞いたことがあります。やや太めの一点鎖線というユニークな描線と,ほのぼのでありながらどこかシニカルさが入り交じった不思議なテイストが独特の魅力を生み出しているのでしょう。

 さて本作品の主人公は3人の幼稚園児です。いい子なんですが,内気なまなちゃん,泣き虫のシクシク君,空手道場の娘で元気なやわらちゃんです(それから童話作家の,まなちゃんのママもよく顔を出します。わたし,このママさんのファンです(笑))。そして彼らの前にときおり姿を現す不思議な「回覧板」。彼らはその回覧板に浮かび上がる絵を手がかりにして,タイトルにありますように,ご近所を冒険します。3人が出会ったのも,この回覧板がきっかけですし(「第1・2話」),一見ホームレスに見えるヴァイオリニストと知り合い,公園で素敵な音楽を聴かせてもらいます(「第4話」)。また異次元(?)に住む河童の兄弟と遭遇したり(「第6話」),まなちゃんのパパへの届け物をなくしてしまったときは,お地蔵さんに助けてもらう(「第7話」)といった,不思議な「お隣さん」とも出会います。この回覧板は,「ご近所」の隠れた「顔」を見せてくれる「道先案内人」といったところなのでしょう。最終話のすっきりとした幕の引き方もいいですね(読み終わってから,改めて読んだママさんの「ひの,ふの」には笑ってしまいました)。

 そしてこの回覧板,どうやら舞台となっている町に昔から言い伝えられているようで,肉屋のおばさんにとっては憧れの存在だったようです(「第3話」)。生活に疲れたおばさんが,
「この町にも,冒険がいっぱいあるんだねえ」
としみじみつぶやくシーンは,なんだか胸を「キュン」とさせるものがあります。
 そうなんですよね。子どもにとって「ご近所」というのは,大人になってからは失われてしまう「異世界」なのでしょう。親から「あの道路の向こうに行ってはいけません」といわれた「あの道路」の向こう側は,まったくの未知の世界でしたし,あるいはまた,そんな親の注意を無視して,友人たちと「あの道路」を渡ったときは,まさに「冒険」と呼んでいいワクワクドキドキものと言えましょう。
 この作品は,そんな子ども心を,ユーモアを交えながらも,くっきりと見事に切り取って見せてくれます。

 ところで,この作品が「ゲーム化」されているという話を(たしか『まんがくらぶ』誌上で)読んだときは,(作者には失礼ですが)「えっ!そんなに人気あったの!!(@o@)」などと思ったのですが,巻末の記事によれば,もともとはゲームが先行していて,本作品が連載,ところがゲームの方は連載終了後に完成・発売という,変則的なスケジュールになってしまったようですね。

99/09/21

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