細野不二彦『ギャラリーフェイク』20巻 小学館 2000年

 いやはや,もう20巻ですよ。この作者の作品としては,一番長いのではないでしょうか。8編のエピソードを収録しています。

「同行三人」
 四国のボロ寺で大晦日を過ごすフジタは,自殺志望の男と出会い・・・
 なるほど,ちょうど2000年問題が取りざたされている頃の作品なんですね。あれからもう1年くらいたつんだ,などという,内容とはまったく関係のない感慨にひたりました(笑)
「イヤー オブ ザ ドラゴン」
 サンフランシスコNo.1の風水師・郭大言は,死んだ師匠が残した“地動儀”を探すが・・・
 以前テレビで,最新テクノロジィを結集した工場を造る前に,地鎮祭を執り行っているのを見て,不思議な感じがしましたが,香港などで,世界経済のトップ・ランナーたちが,風水師に頼ってビルを建てているのを見ると,同じようなことが世界中あるんだな,と思いますね。
「注文の多い家庭教師」
 借りた本を返しに,大学時代の友人を訪ねたフジタは,彼女の息子と知り合い・・・
 へえ,笑顔を描いた名画って,少ないんですね。こういうのを知るのって,楽しいです。ところで,本編では珍しくフジタの過去に触れられていますが,たしか,フジタは不遇の日本画家の息子という設定でしたよね。そっちの方のエピソードは描かないのかな?
「パサージュを抜けて」
 額縁の隙間から見つかった手紙。その宛名の人物を捜してサラはパリを彷徨う・・・
 迷宮のごとき大都会パリ,刻の止まったパサージュ,封印されたはるか昔の男女の恋・・・ときおり(といったら失礼かな?),こういったしみじみとしたミステリ・タッチの秀作があるから,このシリーズは目が離せないんですよね。本巻で一番楽しめました(でも,フジタのヲヤジ・ギャグはやっぱりつまらん・・・^^;;)
「聖女の鎧」
 フジタは,見せられたジャンヌ・ダルクの鎧に疑問を抱き・・・
 ジャンヌ・ダルクというのは,やはり骨董業界でもミステリアスな存在なのかもしれません。オープニングがどういう意味なのか,しばらくわかりませんでした(笑) それと最後の1ページは,書き足しでしょうか? 妙に浮いているように思うのですが・・・
「オークションの罠」
 オークション会社に勤めるリックは,はじめての日本のオークションで張り切るが・・・
 う〜む・・・なんだかよくわかりません(^^ゞ でも高田館長の「Mr.フジタはペテン師まがいなんかじゃない! れっきとしたペテン師よ! でもねリック・・・彼は超一流のペテン師よ」というセリフはかっこいいですね。
「KYOTO POP」
 高層マンション建設のため,取り壊される旧家。フジタと知念はそれを救うために奔走するが・・・
 「日本の文化はワビサビだけでは語れない」というフジタのセリフには同感ですが,「わび・さび」というのは,戦国末期にできあがった美意識なわけですから,それ以前の文化を,そういった「後世」の美意識で捉えようとすること自体が,間違っていると思います。ですから,わび・さびのアンチとして,平安時代の曼陀羅やら室町時代の金閣寺を持ち出すのは,ちょっと筋違いではないでしょうか?
「from the north hotel」
 田舎で暮らす元エリートのところに,かつて愛した女性から電話がかかり・・・
 作中に出てくるエドワード・ホッパーの絵は,以前,一度だけ見たことがあります。その「シン」とした静寂さをたたえた作風は,わたしも好きです。それにしても「あの曲」を「エスニック」と評するところはおもしろいですね。たしかにアメリカ人にとっては,そうなんでしょう。

00/11/18

go back to "Comic's Room"