細野不二彦『ギャラリーフェイク』13巻 小学館 1998年

 さて今回もミスタ・フジタはお宝探して世界を飛び回ります。それにしても,この作品,いまや『ビッグコミック・スピリッツ』の看板のひとつですねぇ。始まった頃の新鮮さはさすがにありませんが,そのかわりすっかり安定した雰囲気を持ってきましたね(「安定」は「マンネリ」と紙一重ではありますが・・・)。

「カンボジア・クエスト」
 “東洋のモナリザ”と呼ばれるカンボジアの仏像を探しに,ポル・ポト派ゲリラの村を訪れたフジタ・・・。
 カンボジア・タイの国境付近の密林地帯から,いろいろな美術品が密輸されているという話はどこかで読んだことがあります。ゲームをやったことがないので,なんともいえませんが,シビアで陰惨なゲリラ活動をネタにしてゲームをつくるという話は,ちょっと首を傾げてしまいますねぇ・・・。
「連立不当方程式」
 “ギャラリーフェイク”を訪れたひとりの客。彼はゴッホの絵に釘付けになり・・・。
 ゴッホの独特のタッチの中にフラクタル理論が隠れていたという発想はおもしろいですね。すぐれたアーティストが直感で獲得したものを後追いするのが学者の仕事なのかもしれませんね。
「左官魂」
 イタリアから来日した左官職人は,日本の左官に学ぶべきものはないというが・・・。
 「鏝絵(こてえ)」の話です。本物を見る機会はあまりありませんが,写真などで見る鏝絵というのは一種独特の雰囲気があって好きです。気取らずスノッブで,それでいてほほえましい感じがします。
「聖なる宝石」
 大財閥モーガン家に伝わるサファイア“アイリス”,それを盗むという予告状が届き・・・。
 宝石専門の怪盗“翡翠(フェイツイ)”の久々の登場です。サファイアは貞節の証,不貞をはたらくと色が変わるという伝説があるそうです。きっと見る者の方が変わるんでしょうね。
「メトロポリタンの一夜」
 世界三大美術館のひとつ,メトロポリタン美術館。上流階級のパーティが開かれる間も,“メット”はその活動を止めない・・・。
 「美術館の裏側」というと,このシリーズでは,ドロドログチャグチャの世界が描かれることが多いですが,こういった「裏側」はいいですね。「美」を支えているのは,いろんな意味での「技術」なんだな,と思います。本巻では一番楽しめました。
「化石をめぐる人々」
 フジタが訪れた竜ヶ岳。そこは恐竜の化石で村おこしを計画しており・・・。
 やっぱり恐竜というのは,どこかドキドキワクワクさせるものがありますね。それにしても,かつて“恐竜の王”と呼ばれていたティラノサウルスのイメージもずいぶん変わったんですね。たしかにあの貧弱な前足じゃねぇ・・・。
「修復の館」
 フジタがかつて恩師と呼んだ老修復家が死んだ。彼の娘からある絵の修復を依頼されたフジタは・・・。
 フジタが恩師の墓の十字架に花束をぶつけるオープニング・シーンはおもしろいんですが,どうもピントのはっきりしないエピソードです。
「“アンティーク・オルゴールで子守歌を”」
 ある男に送られてきた小包。それが爆発し・・・。
 オルゴールを爆弾に使うというアイディアが楽しめる,ミステリ・タッチの1編です。爆弾入りの超美品アンティーク・オルゴールを捨てる際に悩むフジタ・・・,ホントに骨董マニアってやつぁ(笑)。

98/07/14

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