高橋葉介『学校怪談』12巻 秋田書店 1999年

 神宮寺八千華の登場以来,スラプスティク色が濃厚になっていた本シリーズではありますが,本巻には,もちろんその路線のものも多数含まれるものの,シリアス・ヴァージョン九段九鬼子先生をメインとした2編がおさめられています。
 まずひとつめは,「第197話 血まみれ酒場」。大晦日,客のいない小さなバーのカウンタで,ひとり酒を飲む九段先生。バーテンダから深夜のデートを誘われるが・・・というお話。『夢幻紳士 怪奇編』3巻(徳間書店)収録の「夜会」を思わせるシチュエーションと展開で,「さすが魔美也の子孫!」といったところでしょうか。「あったりめえよ。九鬼子さんをなめんじゃねぇぞ」とのたまう,先生の悪魔的微笑が,なんともいろっぽいですね。
 もう1編は「第210話 殺してやる」。川縁で手紙を燃やす男。その灰が目に入った九段先生は,対岸に奇妙な人影を見つけ・・・というエピソードです。これまた,作者の過去の作品で,わたしの好きな掌編「灰」『怪談』(朝日ソノラマ)所収)を彷彿させるオープニングです。ラストの「後は知らない。とにかくあたしは一度は警告したのだ」という先生のセリフは,正統派怪談ともいえる余韻があっていいですね。
 コメディ・タッチもけして嫌いではありませんが,こういったシリアスな雰囲気の作品も,やはり捨てがたいものがあります。

 さて,このシリーズの登場人物たちは,「なにやらわけのわからないもの」を引き寄せてしまうという霊能力の持ち主ばかりですが,(かつての(笑))主人公山岸くんは,今回はとくにその傾向が強いようです。
 たとえば「第202話 霊熱感」では,風邪をひいて熱を出した山岸くん,見舞いに来た八千華の近過去をつぎつぎと読みとることができ・・・という内容。途中,思わず「どきり」とするシーンをはさんで,すっきりとした「時間怪談」((c)井上雅彦)に仕上げています。
 また,手を触れた相手の心を読んでしまった山岸くん,その相手が殺人者であることを知り・・・という「第205話 殺人連想」は,サイキックな能力を持つ殺人者と,山岸くん,九段先生とのツイストの効いた駆け引きが楽しめる,ミステリ的な作品です。オチはしっかりコメディですが(笑)。なるほど,山岸くんの本音は,そういうことだったのか・・・・^^;;
 ところで,霊能力とは関係ないのですが,山岸くんネタで笑ってしまったのが,無言劇「第209話 マスク」です。学校からの帰途,奇妙なお兄さんから変なマスクを被せられた山岸くんは,超人的なパワァを身につけ・・・といったエピソード。どこか妙に間の抜けたところのある山岸くんのキャラクタが的確に表現されています。そんなんだから,双葉嬢との仲も,いま一歩,進展しないんでしょうね^^;;

 ふたつほど突っ込みを・・・。
 「第200話 ウサギのパーティ」に出てくる,九鬼子先生のバニー・ガールの姿。ヲヤジ的妄想がじつに色濃く反映されていますねぇ(笑)。それと「第198話 凍結病院」での,双葉嬢の冬物コート,ポンポンのついた帽子といい,ちょっとドンくさい感じがありませんか? まぁ,真面目少女だから,いいのかなぁ・・・

98/07/02

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