青池保子『エロイカより愛をこめて』25巻 秋田書店 1999年

 ロシア・マフィアによって,ナチスの残党に売り渡された“パリスの審判”を追ってスペインに入った少佐,ミーシャ,そして伯爵。絵がスペインの大地主の邸宅にあることを知った彼らは,正体を隠して接近するのだが・・・という,「No.18 パリスの審判[Part2]」,完結編であります。

 最初に大笑いしてしまったのが,この3人の偽りの身分とそのやりとりです。伯爵が,「ドリアン・グリーン画伯」というのは,美術窃盗犯としてオーソドックスなところですが,少佐の作家「クラウス・シュミット」はいいですねぇ。伯爵の言う
「意外性に富んだ単純明快な作品は私の愛読書です」
って,どんな作品なんでしょう(笑)。で,ミーシャは,「ロシアの食品会社のイワノビッチ」。「グリーン」と「シュミット」の話を聞いた彼とその部下曰く,
「素晴らしい・・・!! その2人はロシアでも有名ですよ」
「我が社にもシュミットのファンは大勢いますよ」
「モスクワの社長室にはグリーンの絵が数点飾ってあります」

 ははは・・・いつもは強面のミーシャも,任務のためなら臨機応変,舌先三寸で素人をだまくらかすところは,やはり筋金入りのスパイですね。

 すったもんだの揚げ句,絵を取り引きすることになった伯爵と元ナチスの老人,そこに少佐とミーシャが絡んできて・・・というところで,闘牛場を舞台にしたクライマックスです。
 ここにきて,ナチスじいさんの孫息子で,一見,優男風のカルロス,じつは大群衆の中で銃を乱射する「あぶない野郎」であることが明らかになります。新シリーズになって,少佐たちの相手が,「東側スパイ」から,テロリストやマフィアといった輩へとシフトしたせいもあるのでしょうが,なんだか,この手のムチャな連中がよく出るようになりましたね。スパイというのが,基本的に素人衆,民間人の見えないところで陰険な闘争を繰り広げるのに対し,テロリストやマフィアは,そんなこと気にしませんからねぇ(むしろ,テロリストなんてのは,民間人を巻き込むことを目的としているところもありますし・・・)。ですから,ここらへんの展開は,新シリーズの特色のひとつなのかもしれません。
 それにしても伯爵,体重400s以上はありそうな雄牛に襲われる少佐を助けようと,「トロ,トロ」と,形だけはいっぱしの闘牛士で雄牛を引きつけますが,実際に雄牛が向かってくると,さっさと逃げ出すあたり,やはり基本的に「実戦向き」ではないようですね(笑)。

 さて,恒例になりつつある,この巻でのA(アー)くんの名セリフ,
「小リスが少佐を切望しています」(爆!)

 ところで,白泉社のチラシを見たら,最近なにかと話題の多い『メロディ』8月号に,「Z」を掲載するんですね。う〜む・・・いったい何年ぶりだ?

98/06/29

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