青池保子『エロイカより愛をこめて』12巻 秋田文庫 1999年

 CIAの蒸発スパイが残したマイクロ・フィルムをめぐって,少佐,KGBの「白クマ」,CIAの「ゴリ押しディック」が,三つ巴の争奪戦を繰り広げる中に,謎の女スパイ「マリア・テレジア」が加わり,事態はさらに混迷していく。「マリア・テレジア」は何者なのか? マイクロ・フィルムの行方は? そしてオカルトにどっぷりはまった伯爵は社会復帰できるか?(笑)

 というわけで,「No.14 皇帝円舞曲[Patr2]」であります。
 いやぁ,すごいですね,このエピソードは・・・。少佐,「白クマ」,ディックの争奪戦は,アクション・シーンがないわけではありませんが,むしろスパイの本業たる諜報戦が主体で,じつに緊迫感があります。多少おちゃらけも加味されてますが,KGBが,ドイツ大使の入院から,ザルツブルクに行ったはずの少佐がじつはウィーンに身をひそめていることを推理したり,「マリア・テレジア」の電話のさりげない一言から,少佐がマイクロ・フィルムの隠し場所を見つけだしたり,と,手に汗握る頭脳戦が展開されます。3人のはったり,ふかし,思わせぶりを利用した駆け引きも見応えがあります。派手なアクションも好きですが,こういった戦いこそ,スパイ・サスペンスの王道といったところでしょう。

 そしてついに姿を現した謎の女スパイ「マリア・テレジア」!
 案の定,カマゴジラことクリスタはダミーでした。
「スパイ学校ではだれも教えてくれなかったわ。マニュアル以外のことが起こるなんてあんまりよー!」
って,臨機応変はスパイの基本でしょうが! それに少佐や伯爵相手にマニュアルが通用するとは思えませんしね(笑)。で,
「「鉄のクラウス」のダンスの相手をするには,あなたは若すぎたのよ。一度だけの舞台なら,とびきり上手に踊らなくては――」
というモノローグとともに「マリア・テレジア」の登場であります。少佐をして,
「32年間,眠り続けた女か――いやな相手だぜ――」
と言わしめた彼女,いいですねぇ。狂言回し風だった彼女―ぼんやりしていて,人の良さそうなのんびりおばさんが,一筋縄ではいかない女スパイとして一気に表舞台に出てくるあたり,ミステリ好きのわたしとしては,こういった意外性のある展開は,こう,ぞくぞくするようなところがあります。しかし,CIAの夫に,KGBの妻,伯爵じゃありませんが,「理解しがたい精神構造」であることはたしかですね(笑)。

 とまあ,緊張感のあるストーリィではありますが,やっぱり笑わせてくれるところはしっかり笑わせてくれるのがこの作者。この巻ではなんといっても少佐の「チロリアン・ダンス」でありましょう。遂行する任務と,コミカルな手足の動きとのアンバランスが,知らず知らず笑みを誘います。これは,やっぱりミーシャの「コサック・ダンス」との「ダンス決戦」(笑)をぜひ見てみたいものです(もしかして,このあと出てくるのかな?)。

 さて禅修業のおかげで(?),いよいよ社会復帰をはたした伯爵。王宮の地下にあるという仏像を狙います。そして彼の手元には偶然手に入れたマイクロ・フィルム。もうこうなれば,クライマックスは間近,といったところ。さてさて最後に笑うのは誰か? というところで次巻です。

 残念なことに,今回はAくんの名セリフはありません。少佐なき事務所できりきりと頑張っている姿は凛々しいですが,やっぱりボケがほしい・・・^^;;;

98/07/16

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