青池保子『エロイカより愛をこめて』第11巻 秋田文庫 1999年

 前巻までのエピソード「NO.13 第七の封印」で負傷したエーベルバッハ少佐はただいま陸軍病院に入院加療中・・・ということで,まずは「番外編 Intermission」です。で,留守をあずかるNATO情報部の面々は,少佐の退院日をあてる賭けで盛り上がっています。いつもはまじめなAくんの,率先して胴元(?)をつとめている姿には,彼の普段の(=少佐がいるときの)ストレスの深さが感じられます(笑)。そこにSISのロレンス伯爵が絡んできて・・・というところは,番外編のお約束でしょう。ところで,賭けのことを知った少佐,部長を脅して,2万7500マルク(約330万円)をせしめようとします。「おれだって小遣いは欲しいんだ・・・」って,いったい何に使うつもりだったんでしょう,こんな大金? もしかして「ハンブルグの夜の帝王」というのは本当なのかも?^^;;;
 さてもう一編の番外編「ケルンの水 ラインの誘惑」は,伯爵が狙った石像をめぐるオカルト&サスペンス・タッチのお話。そういえばこの作者,『イヴの息子たち』や『エロイカ』が始まる前には,こういった雰囲気の作品もけっこう書いておられたんではないでしょうか? ここに登場したイレーネ,ラストで「今度あう時は女城主になってるわ」と言うあたり,たくましくてしたたか,翻訳サスペンスに出てきそうな女性キャラで,いいですね。

 そしていよいよ本編再開,「NO.14 皇帝円舞曲[Part1]」です。ようやく現場復帰の少佐,意気揚々と出勤しますが,部長の陰謀でウィーンで開かれる軍縮会議に出席するという退屈な仕事を押しつけられます。ところが,時を同じくして,重要な機密を持ったCIAのエージェントが行方不明に! その機密をめぐって各国の情報員がウィーンに集結,少佐も本来の活動を開始します。一方,番外編でなにやらわけのわからないものにとり憑かれてしまった伯爵は,原因となった石像の出所,「シュトルツ商会」に探りを入れようとしますが,じつはその商会,CIAエージェントの隠れ蓑で・・・ということで,ふたりはまたまた交錯するわけです。
 今回の目玉はなんといっても「マリア・テレジア」です。その正体いっさい不明のKGBのスパイ,本部からの指令があるまで,まったく活動しない,どこの機関のリストにも載っていない女です。そしてその任務遂行はたった一度だけ・・・ いわゆる「スリーパー」,日本の忍者風に言うと,「草」という類のもんですね。「マリア・テレジア」とは何者なのか? どのような役割を果たすのか? というあたり,まさにスパイ・サスペンスの王道を行くような展開です。
 その「マリア・テレジア」の第1候補(?)が,クリスタ・ギンテル,その家柄,経歴に傷ひとつない,純情可憐な良家のお嬢様ですが,少佐に言わせるとカマゴジラだそうです(笑)(たしかに「今どきの娘が男の面を見たぐらいで頬を染めるか」という指摘は正しいかも・・・(=^^=))。彼女の姿形,たしか作者がどこかで書いてたと思いますが,今は亡きダイアナ元妃がモデルとなっているようです。その後はスキャンダルまみれになってしまいましたが,この作品が連載されている頃は,「純情可憐なお嬢様」というイメージがあったんでしょうね。諸行無常ですなぁ・・・(°°)
 さてクリスタは「マリア・テレジア」なのか?(サスペンスの常套としては,彼女は「ダミー」のようにも思いますが・・) 機密はどこに隠されているのか? 伯爵は無事お払いできるのか?(笑) 物語はまだまだこれからです。

 毎度おなじみ,この巻で一番笑ったシーンと言えば・・・Aくんの「ぼ ぼくは,上官を心から信頼してますよ・・・っ」と少佐に告げるときのひきつった顔です。

98/05/22

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