とり・みき&ゆうきまさみ『土曜ワイド殺人事件』徳間書店 1998年

 しばしば,安直でご都合主義でワンパターンな展開のミステリ小説は,「さながら,2時間サスペンス・ドラマのような」という比喩で評されることがありますが,それでも,各放送局で似たようなタイプのドラマが,懲りもせず製作,放映されるのは,やはりそれなりに視聴率が稼げるからなのでしょう。ですから,この手のサスペンス・ドラマの流行が,良かれ悪しかれ,日本のミステリ状況を反映しているのもまた事実なのでしょう。

 まぁ,それはともかく,わたしの好きなふたりの作家さんが共作! となれば,もう読まずにはいられません。
 ところで「共作」あるいは「合作」というと,それぞれの作家さんのオリジナル・キャラがひとつのストーリィで「共演」するというイメージが強いですが(水島新司&里中満智子の『野球狂の歌』(だったか?)とか,和田慎二&柴田昌弘の「明日香」と「ラン」の共演とか・・・),この作品は,ちょっと様子が違うようです。巻末におさめられたふたりの「対談・土ワイ 天国と地獄」によれば,本作品は,ゆうきまさみが「予告編」を描き,それをもとに(?)とり・みきがネームをつくり,さらにゆうきまさみが下絵を描き,最後のペン入れは(業界一ペン入れが早いという(笑))とり・みきがする,という形で完成したそうです。ですから,正真正銘(というのも変ですが)「共作」「合作」と言っていい作品だと思います。
 ネームがとり・みきだけあって,内容はナンセンス・ギャグ色が強い感じですが,下絵のせいか,絵のタッチはゆうきまさみに近いと思います。

 さて収録された表題作「土曜ワイド殺人事件」は,「土曜ワイド劇場」をはじめとする「2時間サスペンス・ドラマ」の徹底したパロディです。この手のドラマは,めったに見ることはないのですが,数少ない視聴経験からしても,なかなかドラマの雰囲気をつかんでいるのではないかと思います(トリヴィリアルな部分への着目とこだわりは,このふたりの作者に共通する資質ではあります)。
 たとえばストーリィとは関係のない入浴シーン。わざわざ登場人物に「ここらで入浴シーンにしろといわれたから,お風呂にしたけど・・」というセリフを言わせるあたり,思わず「ニヤリ」という感じです(べつに入浴シーンに「ニヤリ」じゃないですよ・・・)。ところで9時から始まる2時間ドラマは,10時頃,他のチャンネルに換えられないように,入浴シーンやベッドシーンを持ってくるという話を聞いたことがありますが,本当なのでしょうかねぇ? またオッパイを見せる登場人物は早々に殺されるか,ストーリィとはなにも関係ない法則,というのも聞いたことがありますが・・・。
 それと笑ってしまったのが,クライマックス。犯人と対決する主人公,が,犯人に襲われ主人公は危機一髪! 一方,警察は別の方面から捜査を進め,真犯人に迫る! テレビだと,両方を交互に映し出しながら,サスペンスを盛り上げるというのがお決まりではありますが,この作品でも,それをしっかり踏襲(笑)しています。しかもその描き方は,この手のドラマでよく見られるような「ようもまぁ,警察が間に合ったもんだ」という,両者のシーンの時間的ギャップまで,パロディにしているように思えます。
 (しかし,ほんとにyoshirは,2時間サスペンスドラマを「めったに見ない」のか?)

 この本には,表題作のほか,「バナナワニ島殺人事件」「喜劇温泉列車殺人事件」が収録されています。表題作がパロディ色の強い作品であるのに対し,この2作品は,パロディとはいえ,どちらかというナンセンス色が強い感じですね。巻末対談によれば,「バナナワニ」は『そして誰もいなくなった』,「喜劇」は『オリエント急行の殺人』が元ネタだそうですが,読んでいる途中,そんなことは気づきもしませんでした(笑)。
 それにしても,アンナミラーズの制服は,やっぱりHだ(笑)。

 ファンとしては,こういった作品をまた期待したいところですが,ふたりとも売れっ子作家だけに,同じような試みは,二度とできないじゃないでしょうかねぇ。そういった意味でも貴重な作品かもしれません。

98/05/17

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